つまり「倫理」で裁くことと、
「理念」や「イズム」や「セオリー」によって人間を動かそうとすることはまったく、おんなじことですからね。

[上田]
うんうん、わかる。

[糸井]
悪徳政治家が良い政治をする可能性についてもぼくは、語られるべきだと思うし、倫理でしばっていちばん困るのは、庶民というか、ぼくら町人だと思うんです。
人間って、そんな「正しく」できてませんから。

[上田]
そうだよねえ。

[糸井]
立派なことを、たくさんやっている人だけが幸せな社会をつくれるんだとしたら、たぶん人類は、永遠に何にもできないですよ。
でも、そのあたりの人間理解というかなぁ‥‥思想としての「豊かさ」を、ドラッカーの言葉には、感じるんですよね。

[上田]
ドラッカーが、いつも自分に問い直す問いがあって、それは「何をもって憶えられたいか」なんです。



[糸井]
ええ、有名ですよね。

[上田]
何をもって憶えられたいか。
友だちや、知り合いや、昔の同級生や、妻や子どもや孫なんかに
「何をもって憶えられたいか」‥‥って、それは、だれしも考えることができるでしょう?

[糸井]
天下国家にかかわることじゃなくてもべつに、かまわないわけですもんね。

[上田]
そうそう。つまり、何が言いたいかというと、何をするにも、聖人君子じゃなきゃやれないことじゃあ‥‥。

[糸井]
ダメ。

[上田]
そう、ダメなんだよね。
で、そういうことをMBAが教えてくれないとしたら、教えてくれるのは、やっぱり「ドラッカー」なんです。

[糸井]
なるほど‥‥なるほど。

[上田]
社会的な存在としての人間が、自由で、いきいきと働けて、幸せであるような、そんな世の中をつくるには、どうしたらいいか。
ドラッカーが「マネジメント」を開発したのは、そういう動機からなんです。

[糸井]
ええ。

[上田]
だからこそ、ドラッカーの「マネジメント」には
「お金もうけ」という言葉が、出てこないんだな。

[糸井]
ああ、そうか。つまり利益とは「目的」ではなく‥‥。

[上田]
そう、利益とは、社会の公器たる企業がその役割を果たしていくための「条件」である。

[糸井]
利益は目的ではなく、条件である‥‥と。


<続きます>


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