第五回 九州には文学的生活をしている文学人がいっぱいいるんじゃないか
リリー 短編小説集を前に出したんですけど、
完全に小説は作りっ放しというか。
俺の短編小説なんて特に荒唐無稽なことを
書いてるからなんですけど、
あの1冊の中で1か所だけ
ほんとのエピソードが入ってるのがあって。
それ「おさびし島」って言って
東京から逃げて行った男たちが集まった
男だけのさびた島に女の子が1人だけいて、
みんながその女の子とやってるという話なんです。
俺、その小説を書きかけてる時に、
ヌードの撮影に行って写真撮ってたんですよ、
18歳の女の子なんですけど、
「家どこなの?」って聞いたら
とある島だって言うから
「俺、ちょうど島の女の子の話を書いてて、
 やっぱり島に生まれると
 島の人とかとはだいたいセックスすんの?」
と、かまかけたら
「だいたいしますね」って言うんですよ。
すっごい大らかに。


『ボロボロになった人へ』
※「おさびし島」は『ボロボロになった人へ』に
 収録されている。ボロ儲けをしている大麻農家へ
 嫁ぐ嫁を描いた。「大麻農家の花嫁」もおすすめ。
糸井 はははは。
リリー 「どれくらい今までセックスしたの?」
って聞いたら、
「島の人と50人、島に東京から来る人と50人、
 東京に来て50人」って言うんですよ。
「一番今までで覚えてるセックスは
 どういうの?」
って言うと、
年に数回気象庁の人が
観測に来るらしいんですけど。
糸井 はははっ。
リリー 浜辺でその子を
岩場に手をつかして、バックでやりながら
星の話をしてくれたらしいです、
気象庁の人が(笑)。
糸井 はははははは。
リリー 「それがすごい楽しかった」って言うんですよ。
俺、そのエピソード入れたら、
そこだけがすっごい嘘くさいんですよ。
糸井 嘘くさいよねえ(笑)。
リリー あとはほんとに作り話だから、
作り話が真実みを帯びていくように、
ぜい肉を削ってるのに、
ほんとの話がもう
脂が乗りまくってるっていうか(笑)。
そこだけほんとに高カロリーになっちゃって。
糸井 はははは。三枚肉だよねえ。


リリー 「やっぱり最近は現実に起きてることがさあ、
 派手過ぎるから、小説書く気がしないんだよ」
ってよく物書きの人が言われる言葉だけど、
それは実際に何かあるんですよね。
小説的なるものを書こうとする人と、
現実を書こうとすると、
逆に現実を書こうとした方が
バカみたいなことがどんどん起きてることを
書かなきゃいけなくなっちゃう。
糸井 今、映画なんかだと、
これはほんとにあった話です。
みたいなのばっかりになっていますよね。
だから、どっかのところで
「嘘だい!」っていわれることを
ものすごく恐れてる。
一方ではスターウォーズ的、
あるいはホラー映画的な絶対ほんとにないこと、
どっちかになっちゃってるよね。
リリー そうなんですよね。
糸井 うん。だから珍しいけど
社会に容認される
ギリギリみたいな人がいる場所とか、
そういう人間とかっていうのは
いないことにされてますよね。
そう考えると九州はどうもくさいと。
リリー はははは。
糸井 九州にはイリオモテヤマネコじゃないけど、
文学生活をしてる文学人たちが
いっぱいいるんじゃないか?
リリー 自分のたかだか
30年前くらいのことを書いてても、
自分の記憶の中にある時は
何とも思わないんですけど、
文章にした瞬間に、
すげえ田舎だなとか、
すごい貧乏だなっていうのが分かるんです。
それで松尾スズキさんもほとんど同い年で、
地元がほぼ一緒なんで、
話をすると、松尾さんは
「やっぱりリリーさんも鉄集めてた?」
みたいなことを言うんですよ。
「やってましたよ。俺、砂鉄でしたけどね。」
でも、これいつの話だ、
みたいになっちゃうっていうか。

『en-taxi』4号で
 北九州市小倉出身リリーフランキー、
 北九州市折尾出身松尾スズキの対談が
 掲載されている。タイトルは
 「オレたちの、北九州の優しくて獰猛な人びと」
 ちなみに集めた鉄を鉄屑屋にもっていくと
 お金にかえてくれた。
糸井 それ、俺の時代の話ですよ。
だから10年ずれてますよ、完全に。
どっかのところで、炭坑で栄耀栄華が
あった時代っていうのにしがみつき過ぎてて、
周りが時が経つのを忘れちゃったんだろうね。
リリー そうですね。あの辺の筑豊の炭坑の話って、
たぶん俺の時代は閉山になってるから、
いわゆる廃れた後っていうか、
アナザーストーリーなんですよね。
末井昭さんの
『素敵なダイナマイトスキャンダル』
とは違って。


『素敵なダイナマイトスキャンダル』

その時代は
ダイナマイトを持って帰ってきて、
ダイナマイトって
寒天で固めてるじゃないですか。
それをスライスして刺身にして、
酒のつまみにしてたっていうんですけど(笑)。
さすがにそれくらい想像できないくらい
すごくないんだけど、
でもその当時は
活気があって貧乏っていうか、
俺らの時はもう活気がなくなって。
糸井 そうか、冷えてるんだね。
リリー 製鉄用の鉄も冷えて、
炭坑の炉も閉まってるっていう、
冷めきった中で俺らが生まれて、
冷めた生活を見てる。
糸井 次の時代の準備ができないままに
時間がどんどんどんどん経っていったわけだね。
リリー そうですね。
駅にしてもそうですし。
もう廃線になってるんですけど、
駅はそのままだったりとか。
ボーリング場がつぶれて30年経つのに
建物はそのままだったりとか。
糸井 壊せないんだ。
リリー 壊す金がないっていうか。
だから結局町中が遺跡になってるんですよね。
昔のものを整理できないまま、
次の人間が生まれていくっていう。
糸井 壊せない捨てられないっていうのは、すごい。
その力のなさっていうのは
シンボリックだねえ。
年寄りとかってガンになっても
転移が遅いじゃないですか。
あんな感じだよね。
リリー そうなんですよね。

(つづきます!)
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2005-08-09-TUE



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