第四回 笑いをとりにいったところは あからさまに切りました
リリー 一番最初は長編エッセイという
タイトルで書き始めたんですよ。
自分のことを書いても
小説って言われる人と、
言われない人の違いっていうのが
たぶんあると思うんだけど、
それはやっぱり作家さんが書けば
小説になるし、
みうらさんとか俺みたいなエッセイ野郎は、
長く書いてもエッセイになるし。
だから、今まで俺が書いてた
エッセイの粋をここに!みたいな
気持ちで書き始めたんですけど
でも、お袋が病気になったりするような
自分が笑えないことを
笑わそうとするときの寒さって
いらないですよね。



※書き始めたころは
 「自伝じゃなくて
  オカンのことを書いたエッセイ」
 と語っている。
糸井 それはもうすごいですよ。
リリー もうそういうことを
考えてることが笑えないんです。
だから、ゲラになった時点で
だいぶ変わってるんです。
糸井 うん。
リリー 笑いを取りにいってるところって、
あからさまに切ってるんですよねえ。
糸井 あとで?
リリー あとで。
糸井 はあー。
リリー その過程でそうなっていったんで、
みなさん泣いてください、
感動してくださいって
気持ちじゃないんですよね。
自分が恥ずかしいから
笑いを切っていったっていうのは。
糸井 笑いを入れるとあまりにも
地続きになるんでしょうね。
普段とね。ああ、そうかあ。
リリー 例えばおふくろの話なんかでも、
よく急須がないないって探してたら、
冷蔵庫に入ってたことがあったんですけど。
そういう話は友達とするけど、
逆におふくろのことを俺は好きだ
みたいなことっていうのは、
友だちと普段、
話す話じゃないじゃないですか。
無気味な話になるから。
糸井 うんうん。
リリー 何かやっぱり、
いつもしゃべってるようなものの
調子では書けなかったっていうか、
最終的にそれをやってたら
すごく変なものになるっていうか。
糸井 そうだろうね。
だからいつもが否定されますよね。
それやっちゃったらね。
お笑い芸人さんたちがね、
さんま御殿に出るために
ネタ用に生活をするっていう人が
いたとするじゃないですか。
リリー はいはい。
糸井 それやってても絶対無理なんですよね。
どっかのところで
「それ作りやろ!」
と言われてもいいから、
作りに近いところで
拾っていくってことをしないと、
フィクションと現実っていうのが
腑分けできないと人って
生きていけないと思うんだ、
でも芸人さんたちは
けっこう危ないところまで近づいてくし、
みうらじゅん、リリー・フランキー的な
辺りのエッセイストたちっていうのは、
けっこう触ってはいますよね。
だからこそフィクションのところでは
笑いを切っちゃって、
向こうの世界というふうに
渡すんでしょうね。

リリー うん。
糸井 今でも考え方のおもしろいことは
いっぱい残ってるから、
笑う部分じゃないけれども
リリー・フランキーだなって
思いながら読めるとこがいっぱいあるから、
そこはキャラですよね。
リリー 小説を書いてるっていう意識が
全くなく書いてるんで、
起きたことを
順々に書いていったんです。
それで過剰に演出すると、
それがまた逆によくないから、
淡々と書こうとしたんですけど、
これ作り話っぽいなあって
書きながら思うような
現実の話があるじゃないですか。
そこは削っていくってことに
なっていくんだと思うんです。
糸井 うん。
リリー でもやっぱり時として
そういうことが起きると思うんです。
この間、友だちが
自分ちの家の前で
急に女に抱きつかれて
ペッティングしてくれって
せがまれたとか。(笑)
糸井 はははは。
リリー そんなエロ本みたいな話が
時々起きるじゃないですか。人生って。
現実の方が通俗的であって、
純文学的なことっていうのは
実際にあることを書かない虚構になっていく。
ほんとは人のそれぞれの生き方も、
俺も本にしたから
いろんなことがあったと人は思うけど、
どんな人だって、
このくらいの厚さの本になったら
すごい全部ボリュームのあるおかしなことが
いっぱい起きてるんですよね。
糸井 うん。あと、人が普通に生きてる時に
何かをヒントにして
自分の行動やら考え方を
決めてるわけだから、
それは金色夜叉を
ヒントにしてるかもしれないし、
次郎長外伝を
ヒントにしてるかもしれないから、
必ず通俗的な行動に落ち着くんだよね。

(つづきます!)
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2005-08-07-SUN



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