21世紀の
向田邦子をつくろう。

■「久世塾おぼゑがき」62号
 “貫太郎”がやってきた!


「わぁー、ビックリした! 今日来てたんですね」
と、まるで古くからの知り合いのように、
トイレの前で声を掛けてきた掃除のおばちゃんに、
「やぁどうも。今日はお世話になります」
と、とっても丁寧に応える亜星さん。
「いつもテレビで見てますよ、
 まさか会えるとは思わなかった、
 ホントにテレビといっしょですね……」
と相づちを打つ間もなくしゃべるだけしゃべり、
「じゃあがんばってくださいね!」
と笑顔で去って行くおばちゃんを見送りながら、
亜星さんは少し足早にトイレに駆け込みました。

『久世塾』9番目の特別講師は、
作曲家として、そして俳優としても久世作品には
なくてはならない存在の小林“貫太郎”亜星氏。
今回は第6回の糸井重里先生に続く、
脚本家以外の畑からの講師登場です。

「いいですか。我々の仕事は
 “感動産業”でなければいけないんです。
 “感心産業”ではダメなんです!」
と、脚本家や音楽家といった枠組みを越えた
“表現者”としての心構えを強く訴えかける亜星先生。
「感心させるのは比較的簡単なんですよ。
 でもそれだけじゃ無意味なんです。
 もっと右脳を使って、“感動”を生み出さなければ!」

数多くの名曲を世に送り出してきた作曲家は、
近頃の流行りも容赦なく断じる。
「とにかく意味のないタイアップ曲が多すぎる。
 ドラマの主題歌にしても、売ることだけ考えて
 何の脈略もなくくっつけてる場合が多い。
 そんな曲にはドラマの本質、“魂”が入っていない!」

そして【21世紀の向田邦子】を目指す塾生たちには、
「向田さんは、曲の大切さを分かって
 ホンを書いていた人です。
 『このシーンはこんな感じの曲で
 お願いしたいんだけど……』
 と注文を出してくることもしょっちゅうだったし、
 音楽に触発されてシーンを書くことも
 あったんじゃないかな」
と盟友・向田さんの制作姿勢を語る。

その向田さんに捧げた曲
(向田邦子終戦特別ドラマのテーマ)を教室に流しながら、
「皆さんも、脚本を書くときには
 少しくらいは音楽のことも考えてください。
 音楽は使い方を誤ると単なるSE(効果音)になります。
 音楽を音楽たらしめるには、
 ドラマの本質を見抜く力が必要なんです」
と、作曲家の立場に立っての意見を力強く述べられ、
さらに業界全体の現状についても苦言を呈する。

「僕たちのやっている
 “クリエイティブ”っていう仕事はね、
 ある意味“詐欺師的・バクチ的”要素が強くなければ
 面白いモノはできないんですよ。
 それが最近では何でも無難な方向に流れている。
 みんな責任を取るのが怖いんだね。
 責任を取る人がいなくなったから、
 今の日本はダメになったんだろうね」
そういえば最近の社会を騒がせている
いろんな事件を見ても、
みんな責任から逃れようとしている。
“責任”という言葉が今ほど軽い時代はなかったのかも。

しかし不思議なもので、音楽が流れてきたとたん、
教室の空気がふぅっと軽くなった気がした。
「曲を作るときも、演技をするときも、
 とにかく“その気”になってやることが大事です。
 僕なんかは『サリーちゃん』を作るときには
 サリーちゃんになった気で曲を書いていましたよ。
 もちろん『アッコちゃん』のときもそうです」
なるほど。
それだけ思いを込めて書けということですね
(しかし、えらいサリーちゃんやな〜)。

「だから皆さんも脚本を書くときは
 “その気”になって書いてください」
そして最後に、
「モノを創る上で一番大事なコトです」
と、塾生たちに2つのキーワードを伝え、
この日の講義を締めくくりました。

「まず『飽きられちゃダメ!』
 そして『自由でなければダメ!』。
 ただし目立つことや変なことは“自由”とは違います。
 そういったモノはすぐに“飽きられる”ので
 注意してください」

実はこの日スケジュールが詰まっていて、
講演終了後スグに次に行かなければいけない亜星氏。
時間が読めないからと電車での移動。
しかし何といってもあの個性的な風体のこと、
目立つことは必至!?
いきなり電車に小林亜星が乗ってきたら、
ビックリするやろな〜!

それでは。

文責 さとう

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2000-09-14-THU

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