21世紀の
向田邦子をつくろう。

■「久世塾おぼゑがき」59号
 「緑山スタジオ」見聞録


「今日は質問はナシだぞ!」
そう一言クギをさして、
久世塾長は颯爽とセットの中を歩いて行きました。
そこにはいつも教室で見る
「先生」としての久世塾長の姿はなく、
この現場のすべてを仕切る「演出家」としての
久世光彦が立っていました。

8月20日・日曜日。
この日『久世塾』は初めて教室を飛び出し、
日帰りの“修学旅行”に出かけました。
場所は横浜からほど近い、TBS緑山スタジオ。
久世塾長にとっても、
向田作品をはじめ今まで
数多くの名作ドラマを生み出してきた、
まさにホームグラウンドのような場所。
しかも今撮影しているのは、
久世さんにとっても向田さんにとっても代表作といえる、
「寺内貫太郎一家」の最新作。

“21世紀の向田邦子”をめざす
久世塾生が実際の撮影現場を見学するのに、
これ以上のシチュエーションがあるでしょうか。
塾生たちもこのスタジオ見学を心待ちにしていたのか、
日曜日の朝からというのに全塾生120名中、
実に80名以上の人たちが参加しました。

実は僕も緑山スタジオに行くのはこの日が初めて。
噂(……出るらしい!?)に名高い
“ミドリヤマ”がどんなところか、
まるで小学生の遠足前日みたいにワクワクして、
前の夜はなかなか寝付けなかったのです。

そして当日。天気は上々。
しかし、とにかく遠〜い!
さっきは「横浜からほど近い」なんて書きましたが、
決して“近く”はない。
どちらかといえば“ほど遠い”かも。
それを見越して早起きしたのか、
塾生さんたちは皆さん早めにご到着。
集合時間より2時間も早く来ている人もいたりして。

さて、塾生たちが揃ったところで
数班に分かれていよいよスタジオに。
とその前に、この日スタッフが実際に使っているのと同じ
スタッフ台本が全員に配られ、
撮影の流れや専門用語の説明などが行われる。
初めて手にするプロの台本。
なんとなくスタッフの一員になった気分。

そして高野プロデューサー引率の元、
約20名ずつがゾロゾロとスタジオに入っていく。
僕も一番後ろにひっついて、みんなと一緒にスタジオへ。
東京の下町が再現されたセットでは、
すでにリハーサルが始まっている。
俳優さんやスタッフの人たちが
忙しく動き回るスタジオで、
静かにかしこまる僕たち団体さん。
みんな無言でハシッコに固まって、
リハーサル風景を息をのんで見守る。

あっ、名古屋章さんだ! 渋〜い!!
小倉久寛さんだ! 小さ〜い!!
加藤晴彦くんだ! 細〜い!!
そしてあれは、小林“貫太郎”亜星さんだ〜!
やっぱりデカ〜イ!!
と、心の中ではほとんどミーハー状態。

しかしここは撮影現場。
ハシャいではいけない。
そう自分に言い聞かせて、
ともすれば緩みがちな表情をグッと引き締め、
あらためてまわりを見まわしてみると、
本当にたくさんのスタッフがいる。
カメラさん・照明さん・音声さん・小道具さん・
大道具さん・メイクさん、などなど……。

ひとつのドラマを作るには、
こんなにも多くの人たちが関わるモノなのか。
「よし、じゃあ次のシーンいくぞ!」
“サブ”といわれるオペレーションルームから、
聞き覚えのある声が響いてくる。
そしてトン・トン・トンと
階段を駆け下りてきた久世ディレクターは、
ズカズカとセットに入ってカメラ横に陣取る。
「ハイよーい!」パチンと指を鳴らして
リハーサルが始まる。

亜星さんや名古屋さんに細かな演技を付ける久世さん
(加藤くんなんか“ボーヤ”呼ばわり)。
やっぱり演出家は現場での姿が一番カッコいいなぁ!
「ハイOK!いいでしょ」
そういって、もう一度
階上のサブに戻ろうとする久世塾長は、
やっと僕ら見学班に気付いた様子。
グルッとみんなの顔を見回して、
冒頭の一言「今日は質問はナシだぞ!」。

それでもちょっと時間が空いたときなどには、
アチコチ見回る塾生にセットの説明などをしてくれる。
「ここが婆さんの部屋だよ」
へぇ〜、これがあの樹木希林さんの部屋か。
ということは、もちろんアレがあるはず!
「ジュリーのポスターはどこに貼ってあるんですか?」
すかさず尋ねる塾生に、
「あ〜あれね、どっか行っちまったみたいなんだよ」
え? 無くなったんですか??
そういえば壁の一面に、
ポスターの跡らしきものが……。
希林さんはここで
「ジュリ〜!」をやっていたんだなぁ……と、
なぜか感傷的になる僕。

そうこうしているうちにお昼になり、
みんなで揃って食堂へ。
他の撮影に来ているタレントさんいないかな〜なんて、
またもやミーハー気分で食堂に入るが、
僕らの他には誰もいない。
どうやら今日の撮影は「貫太郎」だけらしい。
……残念。

メニューを見ると
【カレーライス400円、ざるそば250円……】
安いな〜! まるで学食みたい。
さっそくテーブルについてざるそばをすすっていると、
衣装のままの名古屋章さんがひとりで入ってきた。
何もいわずに販売機で食券を買い、
定食を受け取り一番奥のテーブルに座る。
こういっちゃ失礼だけど、
テレビで見るより貫禄あるな〜。
さすがベテラン俳優。

午後からは第2班の見学となり、再びスタジオへ。
今度はセットの上の階にある“サブ”といわれる
オーペレーションルームに入れてもらう。
ここではすべての
カメラアングルを確認することができる。
久世塾長もまん中に座って、
各シーンの細かなカット割りを指示する。
「こんなにたくさん人がいちゃ緊張するな〜」と、
ベテランらしきスタッフの方が笑いながら言う。

下(セット)では殺気立っていた雰囲気が、
ここではちょっとだけ和やかに感じられる。
「ここでライト行って、おばあちゃん出るよ」と久世さん。
ということは、ついにあの人が?
「じゃいってみよう。ハイよ〜い、ドン!」
セット内の扉に照明が当たり、
中から樹木希林さんが出てきた。
しかもなぜかセーラー服で!

ここでなかなかタイミングが合わず、
何度か撮り直しを繰り返す。
そのたびに一から準備をやり直すスタッフたち。
よくテレビで「NG大賞」なんていうのをやっているが、
たったひとりの、たったひとつの
セリフの言い間違いのために、
これだけの人間がすべての手順を
やり直さなければならないのだ。
役者さんにとっても、とてもじゃないが
簡単にNGなんて出せる雰囲気じゃない。
塾生たちも、さすがにみんな
真剣な眼差しでモニターを見つめる。

何度かの取り直しでやっとOKが出、
僕らもなぜかホッ。
息付く間もなくスグに次のシーンへと移る。
今度は小林亜星さん扮する「貫太郎」が、
勢いよくイスに座って、そのイスを壊してしまうシーン。
これもなかなか上手く壊れず、
何度かのやり直しの末、OKが出る。

「よかった〜、アレが最後のイスだったんだよ」
とスタッフの声が聞こえてきた。
もしあれでもダメだったらどうしていたんですか?
と高野プロデューサーに尋ねると、
「う〜ん、困っちゃってただろうね」
とクールなお答え。
現場って、そういうもんなんですね。

そうこうしているうちに見学時間も終わり、
僕たちは控室に戻って、
ちょっとしたミーティングのあと解散。
感想などを聞いてみると、
ほとんどの塾生さんが、
スタジオ初体験に新鮮な驚きを感じていたようです。
スタジオを出る前にトイレで一緒になった、
カノックスのADさんのひとことが耳に残りました。
「僕らでもこの世界に入って何年かしないと、
 こんな現場には入れてもらえないんですよ。
 ホントうらやましいッスよ」
スタジオ見学に参加した塾生の皆さん。
この貴重な体験を活かして、
ぜひともいい脚本を書いてください。

それでは。

文責 さとう

★久世塾正式サイトへのアクセスは
 http://www.kanox.co.jp/へ。

2000-08-25-FRI

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