メールを読みます。その9

ほぼ日
では、最後のメールへ。
町田
また家の話からはじまりますね。

夫と私、息子2人とオス犬2匹、
そんな男率の高い我が家にやってきた
果梨(かりん)は夫にべったりの長女になりました。
おてんばで活発な果梨は、
夫とペアでドッグスポーツを楽しみ、
全国大会まで遠征し、
私と息子たちが入る隙間のないほど
夫となかよしでした。

ところで「愛犬」という言葉は微笑ましく
健気なわんこを思い出させますが、
我が家の果梨はあまりにも夫にべったりで、
私にはどこか気持ちを許さず、
むしろ対抗する態度を見せていました。
そんな果梨を見ていると、
私との関係は妻と愛人、もとい愛犬? と
錯覚してしまうほど夫の愛情を独占していました。
月日は流れ、果梨も去年の夏に
17歳を目前に亡くなりました。

亡くなる少し前、気の強いあの子が
さすがに弱ってきて、
もうあまり長くはないのかな‥‥と思ったとき、
「今度、うちに来るときは人間の娘になって来てね」
と、あの子に話したら、怪訝な顔をしたんです。
そこで、はっ! として
「そうだ、今度は人間の私の友達になって来なよ、
 そしてパパを取り合うんだよ、
 パパはどっちを選ぶかな~」
と、あの子に話したら、
ちょっと笑ったように見えました。

数日後、やっぱり最期はちゃんと
夫が休みの日に旅立ちました。
次は3人で会うのかな?
ちゃんと覚えていてくれるかな?
まだまだ悲しみの中から抜けられない夫には
打ち明けていない、あの子と私の内緒話でした。

(ごんごん)

町田
ドッグスポーツって、
アジリティーとかかな?
ほぼ日
フリスビーみたいなやつとか‥‥。
友森

愛犬というより愛人、なんですね。

町田
うーん。
犬は、恋愛的な感情は別に、
ない‥‥気がぼくはします。
友森
それよりも「わが子」に近い感情が強いですね。
町田
猫だと多少は‥‥。
友森
多少?
町田

でも、その猫はオスだったりするしなぁ。

もしかしたら、人間同士の関係と、動物同士の関係と、
人間と動物の関係を
整理して考える必要があるのかもしれませんね。
人間の関係を動物に投影して考えちゃうと、
ちょっと違う気がします。
愛人とか上司とか、人間社会のある種のものさしを
あてはめるのは、やっぱり無理がある。

「この人は私の上司なんだから、
 どつかれても我慢せえよ」とか言われたら、
ちょっと犬はしんどいよね。
でも、この方は間違った飼育をしてるとは
思えないですので‥‥

友森
うん、ちゃんとしていると思います。
ほぼ日
この場合はパパさんに
なついてらしたということですよね。
町田
ドッグスポーツとかやって、終日、
いっしょにいて。
友森
遊んでくれてたからね。
そりゃ、遊んでくれる人にはなつきます。
町田
でも、考えてみると
犬や猫の嫉妬心のほうが
人間より強い気がします。
友森
ああ、それは、すごいですよね。
町田
妻がほかの犬をかわいがってると
わざと近くに行き、
怒って体あたりしたり。
友森
犬、あいだに入ってきたりしますもんね。
ほぼ日
人間同士がなかよしすぎて
嫉妬するということはないのでしょうか。
町田
あ、ていうかね、
犬と人間というのは、そういう関係じゃないんですよ。
ひとりの絶対的な「一神教の神」のような人がいて、
それに対してみんなが帰依していく感じなんです。
ほぼ日
帰依‥‥。
町田
犬の感じで言うとね。
だから、夫と愛人とか
そういう関係じゃないと思います。
この子にとっては、その夫さんが多分、
一神教の神で。
友森
そうね。
神みたいな存在で。
ほぼ日
じゃあ‥‥、
お母さんは帰依してる中の
おひとりなんですね‥‥。
町田
そうでしょうね。
自分と同じ、信者さん‥‥ていうか、
なんて言うんでしょう、
人間‥‥弟子‥‥でもなくふうつうの‥‥
ほぼ日
妻ですが‥‥‥‥
町田
もう、地の塩ですよ。
地の塩というかなんというか(笑)、
民草、つまり人民ですよね。
友森
だんだんおかしくなってきた(笑)。
ほぼ日
なるほど。
じゃあ、神様となかよくしてると、
それはちょっとおかしいことなんですね。
町田
そうです。
「神に対してなにをやっとるんだ。
 俺かてやりたいのに、
 がまんしてるのに」
そんな感じじゃないでしょうか。
友森
だから「娘になりなさいよ」というと
怪訝な顔したんですね。
町田
「はぁ?」
「おまえ、同じ立場、同じ信者さんやろ」
「なんで信者の娘になるんや」
と言って、それで、
「人間になってパパを取り合って、
 同じ信者として、どっちがより
 神の忠実なしもべとなれるか競争しようや」
と言ったら「わかった」と、こういうことです。
友森
納得したんですね(笑)。
町田
問題はこの妻、ごんごんさんが
夫のことを一神教の神のように
思っているかどうかということです。
しかし人間だから、
人間同士の夫婦としての関係があるんで、
それはそれでふつうに
大事にしていけばいいんだけどもね。
ほぼ日
それはそうですね。
友森
人間同士の関係は
犬には関係ないことで、
神と、信者と、知らない人と、ぐらいしか
いませんね。
町田
しかし‥‥こうやって話してみると、
犬というのは人間の社会と
密着して生きてるんだなと思います。
犬のことを書いてくださっているのに、
どうしてもそのおうちの事情というのが(笑)、
絡んできますね。
その人の先妻の子がどうのこうのとか、
あまりこう、知りたくないようなことでも
そこから話さないといけなくなりますね。
友森
家族の話をしないと犬の話に行けないですね。
町田
そうでないと、飼育環境がわからない。
友森
でも、飼育環境は重要です。
うちで譲渡するときも、
前はざっくりと職業を聞いてましたが、
最近は会社名も聞くようになりました。
「残業が多い業種だな」とか、
「転勤が多いところだな」と判断して、
残業や転勤時にどういう対応をするか
訊くようにしています。
町田
それ、すごいですね。
友森
動物は、家族しだいですから。
町田
やっぱり金融系はあかんな‥‥とか?
友森
引っ越しが多いし‥‥とか。
外資系の企業だと海外転勤があるので
「海外転勤になった場合、犬はどうしますか」
と必ず訊ねます。
「犬と一緒に引っ越します」とか
「国内の親戚で預かってくれる人がいます」
ということを確かめないといけません。
町田
その時点ではじめて考えたりする人は‥‥。
友森
考えてないんだな、ということで、
お断りをすることもあります。
町田
「そのときはそのときです」じゃ、ダメですからね。
その点、小説家はいいですよ。
じーっと家にいてますので(笑)。
友森
小説家やデザイナー、ミュージシャンは
家にずっといるから、いいですね。
町田
家にいます。
ミュージシャンも仕事ないから、
ずーっと家にいる(笑)。
友森
ボランティアさんでそういう人が
何人かいらっしゃいます。
保護したてのとき、手がかかる子がいると
「あ、あの人、確かデザイナーかミュージシャンだから
 家にいるはず」
「あそこなら留守番がないや」
と思って預けます。
会社員だと、10時間とか12時間、
ゆうに家にいないから。
寝る時間を引いたら、
動物と1、2時間しか接しないから難しいです。
町田
猫ならまだそれでもギリギリ行けるけど、
犬はお散歩がありますから。
あまりに留守番が長いとダメ。
犬は、孤独に弱いですね。
友森
うん。犬は孤独がいちばんの
ストレスかもしれないね。
ほぼ日
いっしょにいることが、たいせつ‥‥。
町田
うん、そうですね。
犬の気持ちで考える視点を持つのが
いいと思います。
ほぼ日
長い時間、ありがとうございました。
友森
ありがとうございました。

(おしまい)


2015-03-25-WED

「雲がうまれる」SHOP ウェブとリアル。
もくじ