Kuma
クマちゃんからの便り

南洋通信 その14

あの広大なライスフィールドの湿った空に、
バッタもトンボも飛び交っている。
スカーフが翻って小さな日陰を作ったヴュー・チェアーには、
もうオレはいない。
BALIの子供らや田植え帰りの大人たちが登って、
アグン山を眺め自分の家を探しているだろう。
シラサギがひと休みしているかも知れない。
今日も昨日と変らないランドマーク。
ヴュー・チェアーが載っている樹の根元の細い畦道には、
<KING OF PLANTS>が
ライスフィールドを眺めて立っている。
彼の身体に穿った孔には、ツタ草の種を埋め込んできたから、
やがて石の彼は、南洋の熱帯速度で芽をふいた
ツタ草の服をまとうだろう。
TARO! 達者で
たまにはあの樹に登ってアグン山を見に行ってくれよ。
きっと来年は、元気な男の子が来るぞ。



北半球に戻ったオレは、
ミラノへの<極東からのヒカリ>を再開。
一トンのネオジュウム硝子を鋳込むのである。
二つのヒカリを持つ硝子は、
工芸なぞで多少は眼にすることはあるが、
こんな圧倒的なカタマリはオレしかやらないだろう。
熱帯植物の熱帯速度を取り込んだオレは八方窯に泊り込んで、
二メートル×四メートルの土と戯れて
KUMABLUEと融合させた陶板を焼きに行か
なくてはならない。
オレが<くつろぐ>のは
ゲージツに集中しているジカンだけだ。
間もなくお盆に入る北の気配はすでに秋。
キキョウも咲き始めた。




『蔓草のコクピット』
(つるくさのこくぴっと)
篠原勝之著
文芸春秋刊
定価 本体1619円+税
ISBN4-16-320130-0
クマさんの書き下ろし小説集です。
表題作「蔓草のコクピット」ほか
「セントー的ヨクジョー絵画」
「トタンの又三郎」など8編収録。
カバー絵は、クマさん画の
状況劇場ポスターの原画「唐十郎版・風の又三郎」です。

2001-08-17-FRI

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