むかしの暦で、いまを楽しむ。 旧暦と暮らす「ほぼ日」の12か月。
2006-12-22-FRI
旧暦:十一月三日
旧暦について、ちょっとおさらいを


志の輔 近松先生、さきほど
旧暦は平均一ヶ月日付が遅くなってる
っておっしゃってましたが、
平均、なんですよね。
新暦にあてはめてみると、
その日付って毎年同じじゃなくて、
ずれるんですよね?
そうすると、例えば、
鮎の解禁日っていうのが、
いつも同じってのはおかしくないですか??
糸井 関東だと、新暦の6月の何日だかに、
毎年やってますよね。
志の輔 ってことは、鮎のほうがもう新暦に
合わせちゃってるんですか?
沖縄の魚とちがって。(笑)
近松 鮎のお話は、
沖縄のお話とはちょっと違うところが
ありますね。
沖縄のほうの話は、
単純に「旧暦の日付はだいたい新暦の1ヶ月遅れ」
というところから来てますよね。
あくまでも、日付の部分のお話です。
でも、鮎の話は、ちょっと違うんですよ。
鮎の解禁日の場合は、
「このくらいの季節になったら、
 充分に成長しているし、
 鮎を釣ってもいいよ。」
ということですよね。
つまり、日付よりも「季節」のことと
考える必要がありますね。
旧暦の日付は、月の満ち欠けにもとづくものですから、
季節をはかる目安にはあまりならないのですよ。
季節は、あくまでも太陽の動きによるものです。
旧暦‥‥つまり太陰太陽暦の「太陽」の部分です。
糸井 あれ? ちがうんですか?
近松 はい。
季節というのは、地球と太陽の関係ですよね。
地球と太陽の位置関係で、暖かさや寒さが決まります。
お月様がいくら光っていても、暖かくなりませんよね。
太陽の角度が高くなれば、
熱量が多くなるので、暑くなる、
ということなんですよ。
だから、だいたい梅雨の前ころに鮎が解禁になる、
という「季節」によることなら、
毎年新暦の6月に解禁になる、
ということでもいいんですよ。
けれどもしも、江戸時代から、
仮に旧暦の6月の3日に
鮎が解禁になったとしましょう。
糸井 まあ、そういうことは
なかったとおもいますけどね(笑い)。
近松 (笑)
そうですね。仮にそうだとして。
そのまま新暦にあてはめると、
平均して、6月3日という日付は、
平均すると旧暦よりも1ヶ月ほど
前倒しになってしまうので、
これはあくまでも平均で、
旧暦の同じ6月3日の日付でも、
新暦に直すとプラスマイナス
2週間ほどの範囲で動きますから
鮎にしてみれば、おかしなことになる、
という具合なんですよ。
これが、沖縄の話と同じ質のことです。
6月の3日っていうのは、
旧暦では必ずしも毎年同じ時期にはなりません。
でも、新暦のほうは「太陽暦」ですから
季節と日付は毎年毎年同じになりますよ。
糸井 はあ、なるほど。
ではつまり、魚はどういう立場でいるんだろう?
近松 魚は、
五感で感じてるんじゃないでしょうか(笑)?
まわりの環境で、水温が上がったから、
動き出しましょうか、というように
本能的に動くというか。
つまり、水温が上がるというのは、
太陽の仕業ですから。
志の輔 なるほどね。
近松 さらに、沖縄の話でいうと、
その「たくさん魚がとれた日」というのは、
潮の干満の関係ということも
あるかもしれませんね。
例えば、その魚は何月かの大潮の日に
産卵をするために、浅瀬に集まる、だとか。
その枕の話からはちょっと
それてしまいますけど。
糸井 潮はお月様ですね。
近松 お月様と太陽の関係なんです。お月様だけじゃない。
お月様と太陽と地球の位置関係によってですから。
旧暦のメリットは、月の満ち欠けがわかる、
ということでもありますから、
潮の満ち干もわかるということなんですよ。
今日は新月だから、大潮だ、とか。
志の輔 先生、
夏至と冬至は旧暦ですか? 新暦ですよね。
近松 新暦というか「太陽暦」といったほうが
ぴたっとくるんではないでしょうか?
夏至と冬至は、昼間が一番長いか、
短いかということですよね。
ということは基準は「太陽」ですね。
もちろん、昔の暦でも夏至はあったんですけども、
旧暦の日付にすると、
それが、平均で約10日、
閏年になると約1ヶ月
ずれていきますね。
糸井 夏至と冬至は太陽との関係ですから、
当然今の新暦でピタッとくる。
志の輔 ああ、ピタッと。
近松 他にも、春分、秋分は。
糸井 ピタッとくる。
近松 全部地球と太陽の関係ですから。
志の輔 あ、そうか、太陽の関係ですものね。
近松 農業の暦なんかは、
やっぱり太陽暦です。
季節が重要な意味を持ちますからね。
糸井 二十四節気も太陽暦ですね。
近松 そのとおりです。
江戸時代は、一般の人も、
太陰太陽暦ばっかり使ってたというわけじゃなくて、
実際には太陽暦も使っていました。
カレンダーこそ、太陽暦じゃないんですけども、
二十四節気とか、雑暦の二百十日とか、
二百二十日とか、八十八夜とか、
これ全部立春からの何日目ということですから。
立春というのは、太陽暦ですからね。
糸井 太陽暦のなかにある
行事といったらおかしいけど、
そういうイベントを、
「日付」で考えようとすると、
昔と今とずれちゃって
わかんなくなっちゃう、ということですね?
近松 そうです。そうです。
昔の暦は、それが今のように6月20日前後、
ということじゃなくて、極端なことを言うと、
夏至はたいてい5月に来るのですが、
時として前の月の末か
次の月の始めになる時がある、
ということなんですよ。
糸井 そうか。普段ベースにしてて、
目に見てるのは月で、太陰暦なんですね。
で、その日付と「太陽暦」の季節がずれて見えるから、
暦として、わざわざ日にちを
発表しなきゃなんなかったんだ。
じゃ、俺らは今も、
昔の暦で太陽暦に基づいたものは
全然ずれてないんだ。
そこに、あと、
月の概念を入れていけばいい、
ということなんですね。
志の輔 その、月の概念ってのが入ってるから、
バイオリズムとかそういうことにひっぱられて、
なんとなく、
「旧暦のほうが、自然」ということを
思うんでしょうね。きっと。
近松 そうかもしれませんね。
糸井 なんとなく昔の人のリズムに
ぴたっとあって、
しかも身近だったのは
お月様のほうな気がしますね。
近松 強くお月様だと思いますよ。
外にでれば、月はいつでも変化をしていますし、
それで「今日は○日だな」って
わかる仕組みが旧暦ですから。
志の輔 そんなふうに月と自然に暮らしていたんですね。

(続きます。)

イラストレーター:玉井升一
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