むかしの暦で、いまを楽しむ。 旧暦と暮らす「ほぼ日」の12か月。
2006-08-15-TUE
旧暦:七月二十二日
旧暦は「月」だけでなく「太陽」も関係している!
糸井重里が、農業家のかたから
こんなことを聞いたことがあるそうです。
農業は、旧暦を基準にすると、
いろいろなことがうまくゆくのです、と。

近松先生、前回、漁業は潮の干潮、
つまり月の満ち欠けに大きく影響されるので
月を基準に日付を定めた旧暦は
とても役にたつというお話でしたよね。
じゃあ、農業も同じなんでしょうか?

近松先生
近松
ううむ、じつは、それはちょっと難しい話なんです。
その農家のかたがおっしゃっている旧暦というのは、
二十四節気(にじゅうしせっき)や
雑節(ざっせつ)のことじゃないかな?

にじゅうしせっき? ざっせつ?
先生、それはいったいなんですか?


まずは、近松先生による
こんなデータをごらんください。

新暦(西暦)の
日にち
ずれの日数 回数 新暦(西暦)の
日にち
ずれの日数 回数
1月21日 20日 2回 2月7日 37日 12回
1月22日 21日 2回 2月8日 38日 10回
1月23日 22日 8回 2月9日 39日 8回
1月24日 23日 6回 2月10日 40日 8回
1月25日 24日 10回 2月11日 41日 11回
1月26日 25日 9回 2月12日 42日 7回
1月27日 26日 8回 2月13日 43日 9回
1月28日 27日 10回 2月14日 44日 9回
1月29日 28日 10回 2月15日 45日 8回
1月30日 29日 7回 2月16日 46日 10回
1月31日 30日 12回 2月17日 47日 10回
2月1日 31日 7回 2月18日 48日 9回
2月2日 32日 7回 2月19日 49日 9回
2月3日 33日 10回 2月20日 50日 8回
2月4日 34日 8回 2月21日 51日 1回
2月5日 35日 14回 2月22日 52日 3回
2月6日 36日 3回

これは、江戸時代の旧暦の正月朔日(元日)が、
現在世界中でひろく使われている
新暦(西暦・グレゴリオ暦)の何月何日にあたるのか、
ということを調べたものです。
いちばんずれが少ない年でも、
旧暦の正月朔日(元日)は、新暦の1月21日。
平均をとると、なんと現在の2月6日が
旧暦の正月朔日(元日)。
1か月以上も、旧暦と新暦では
ずれていることになります。

そうなんです。月を基準にした旧暦は、
「じっさいの季節との、ずれ」が生じます。
月の満ち欠けを基準に、新月→満月→新月の1日前を
「ひと月」に、それが12か月で1年、とすると、
354日しかないんです。

それでは、太陽がひとめぐりする周期
(回帰年・太陽年)である、
約365日よりも短い1年となってしまいます。
これをくりかえしていくと‥‥。

季節というのは、太陽の影響をうけますから、
月の運行を基準にしたものとは、
季節の「ずれ」が生まれてしまうというわけです。

暦が季節とずれる? それはいけない!
これを解消するために考えられたのが
「閏月」(うるうづき)です。
そう、むかしの暦は1年が「13か月」のことがあって、
その年のことを「閏年」(うるうどし)と言ったんです。
この「閏月」を、3年に一度くらい入れていくと、
季節と暦の誤差が小さくなるんですね。
とはいっても、約3年に1回1ヶ月つけたす、という風だと、
どうしても、日付と季節が毎年少しずれてしまいます。
(‥‥おっと、ここで閏月について話しだすと、
 膨大な文章量になってしまいそうなので、
 閏月については、次回、またくわしく解説しますね。
 ともかくも、閏月というものを用いて、
 月の暦と太陽の暦の「ずれ」を補正していた、
 ということだけ、おぼえておいてくださいね。)

さて、閏月を入れて調整しなくてはならない暦って、
はたして農業の役に立つでしょうか?
残念ながら、完全に信頼するわけにはいきません。
「毎年○月○日に、種まきをしましょう」
と決めても、じっさいにその日が
「前の年と同じ気候」とは言えないからです。

では、旧暦の時代に農業は、
いったい何を基準にしていたのでしょう?
そう、それは、太陽なんです。

二十四節気は、太陽の運行をもとにした「区切り点」。


いまも残ることばに「八十八夜」というものがあります。

♪夏も近づく八十八夜 野にも山にも若葉が茂る♪

これは「茶摘」という唱歌の歌詞ですが、
これを直訳(?)すると、こういうことになります。

♪立春から数えて88日目には夏も近い感じになって
 平野部にも山間部にも新緑がたっぷりだ♪

詩心のまったくない訳し方ですみません。
ともかくも、その日に茶を摘むのだ、
ということですから、
つまりは「八十八夜」という日には、
「季節」とともに「農業の指針」が入っている、
ということになりますよね。

月を基準にした暦は、季節とずれてしまいます。
そこで、閏月を入れることで
そのずれを解消したのですが、
しかし、それでも季節とのずれは、
ある程度は出てしまいます。
そこでむかしの人は、
太陽の運行をもとにした区切りの日をつくって、
季節感の指標としたわけなんです。

これが、いまも天気予報などで耳にする、
「啓蟄」や「立春」など、季節をあらわす言葉である
「二十四節気」なのでした。

二十四節気は、太陽のめぐる1年(1太陽年・1回帰年)を、
季節ごとの軌道のちがいまで計算に入れたうえで、
24にわけて、設定されています。

そして、この、二十四節気のうち、
「雨水」を含むひと月を、「正月」、
「春分」を含む月を「二月」‥‥として、
暦を設定したんです。


二十四節気は、新暦のいつごろにあたる?

    新暦の日付     新暦の日付 旧暦で含まれる月名
立春 りっしゅん 2月4日頃 雨水 うすい 2月19日頃 正月
啓蟄 けいちつ 3月6日頃 春分 しゅんぶん 3月21日頃 2月
清明 せいめい 4月5日頃 穀雨 こくう 4月20日頃 3月
立夏 りっか 5月5日頃 小満 しょうまん 5月21日頃 4月
芒種 ぼうしゅ 6月6日頃 夏至 げし 6月21日頃 5月
小暑 しょうしょ 7月7日頃 大暑 たいしょ 7月23日頃 6月
立秋 りっしゅう 8月7日頃 処暑 しょしょ 8月23日頃 7月
白露 はくろ 9月8日頃 秋分 しゅうぶん 9月23日頃 8月
寒露 かんろ 10月8日頃 霜降 そうこう 10月23日頃 9月
立冬 りっとう 11月7日頃 小雪 しょうせつ 11月22日頃 10月
大雪 たいせつ 12月7日頃 冬至 とうじ 12月22日頃 11月
小寒 しょうかん 1月5日頃 大寒 だいかん 1月20日頃 12月

雑節は、季節の移り変わりを知るための基準となる
二十四節気には入らない、とくべつな日のこと。
もともとは、中国で考えられたものです。
「八十八夜」はそのひとつで、
立春から数えて、その日が何日目にあたる、
など、すべて「太陽暦」起源のものなんですが、
24節気ほど規則的ではない、ということで、
「“雑”節」と呼ばれたのでしょう。


雑節は、新暦のいつごろにあたる?

    現在の日付  
節分 せつぶん 2月3日頃 立春の前日のこと。
もともとは、立夏、立秋、立冬の前日も
節分と称した。
彼岸 ひがん 3月20日頃
9月20日頃
春分・秋分を中心として、
前後3日をあわせた7日間のこと。
八十八夜 はちじゅう
はちや
5月2日頃 立春から数えて88日目の日。
入梅 にゅうばい 6月11日頃 太陽が黄経80度を通過する日。
梅雨に入る時期の目安。
半夏生 はんげしょう 7月2日頃 半夏(からすびしゃく)という
薬草が生える時期。
二百十日 にひゃくとおか 9月1日頃 立春から数えて、210日目。
暴風雨(台風)がやってくる日の目安。
二百二十日 にひゃくはつか 9月10日頃 立春から数えて、220日目。
こちらも、天候が悪くなり、
暴風雨(台風)がやってくる日の目安。


二十四節気、雑節、ともに基準となるのは太陽の運行ですから、
季節との食い違いはありません。
立春が来れば、その日を境にあたたかくなっていく。
立秋が来れば、その日を境にすずしくなっていく。

このような、月と太陽の運行を基準にした暦のことを、
学問上で「太陰太陽暦」と言います。
これが、明治五年までの日本で使われてきた暦。
そう、このページで「旧暦」と言っているのは、
その「太陰太陽暦」を指しているんです。

江戸時代の暦は、月を基準にした日付(太陰暦)を、
閏月を加えることで季節とのずれを調整し、
太陽を基準にした二十四節気や雑節(太陽暦)を加味し
季節を明確にした暦なんです。
つまり、太陰暦と太陽暦を併用していたことになります。


──さて、ここまで、基礎知識編はおしまい。
ちょっとかけあしで解説しましたので、
「うーん、まだちょっとよくわからないな?」
というかたも、いらっしゃるかもしれませんね。
そう、旧暦のことって、
とうてい、数回ではお伝えしきれないような、
膨大な話なのです。
次回から、近松先生とともに、
よりくわしく(もちろん、たのしく)かつ簡潔に、
掘り下げて行きますので、
どうぞおたのしみに!

近松先生のプロフィール
イラストレーター:玉井升一
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