『人間は何を食べてきたか』は
誰が観るのか?
あ、オレか。
小山薫堂さんと、軽めに食を語る。

第3回 食の知識と鑑賞力
 
  (小山薫堂さんプロフィール)
糸井 今、食のデータの収集っていうのは、
食いに行くことと、
書かれてあるものを調べるのと
両方やってると思うんですけど、
そうやって知識が増えた上で、
食いに行った時、
びっくりすることって、
増えていくんですか?
それとも減っていくんですか?
小山 増えていくのかも知れないですね。
今まではまったく気づかなかったけれども、
知識を得たことによって、
それが驚きになるってことがあるじゃないですか。
例えばこのうな重
※註1)を、
何も知らなかった頃には、
「うな重、うまいな!」しかなかったのが、
うなぎの種類を知り、
さばき方を知り焼き方を知ることによって、
「おっ、ここはこれやってんだ」
とか、そういう、
気づくチャンスがやっぱり増えますよね。
そういう意味では増えてるんだと思います。


※註1 このうな重を
この日の夕ご飯は、
お客さま向けに「うな重」をチョイスした
ほぼ日スタッフであった。

糸井 それはスポーツ観戦なんかでも、
まったく同じですよね。
小山 あぁ、そうですね。
糸井 同時に、その驚きが増えてくんだけど、
からだ全体が震えるような感動っていうのは
やっぱり、減りますよね。
小山 あぁ!うん。
糸井 もしかしたら総量としては、
同じなんじゃないか?と思うんです。
性欲に例えたらもっとそうだけど、
「やった!」
ってだけで嬉しい時期があって、
だんだんそうじゃなくなりますよね。
どっちがいいんだろう?
何もしなかった方がいいんじゃないか?
って考えてしまうような。

鑑賞力がないと、感動しない
小山 (笑)うん。なるほど。
僕、若い人を食べに連れて行くのが好きなんでけど。
「初めて食べるものを食べる人」を見るのが好きなんです。
スキーに行くときに、
初心者のスキーヤー連れて
上に行くの楽しいじゃないですか。
あの要領で、
初めてフグ食べさせるとか、
初めてしゃぶしゃぶを食べさせるとか。
そういうことが好きなんです。
うちのラジオの番組
※註2)のADの女の子が、
肉が大好きな25才なんですけど、
しゃぶしゃぶをまだ食べたことがないらしいんです。
一度、食べてみたいって言うから連れてったんですよ。
で、こうやって肉をつまんで、
こうやって食べるんだよって教えたら、
ものすごく嬉しそうな顔をして、
食べるわけですよね(笑)。
それを見ると、なんか幸せな気分になるんです。
自分が忘れていた何かを、
そこに、発見できたみたいな。


※註2 うちのラジオの番組
現在、小山さんが出演されているラジオ番組は
FMヨコハマ(土)9:00〜11:00オンエアの
「Future Scape」
J-WAVE(土)18:00〜18:54オンエアの
「AJINOMOTO 6pm」の2つ。
「土曜日の声は小山薫堂に限る」という人も
いるとか、いないとか。
糸井 それはもう、ポルノですね。
小山 (笑)いいですよ。
糸井 その気持ちは、僕にもわかるわ。
僕も同じようなことしてるんだけど、
一つ気づいたことはやっぱり、
「相手に鑑賞力がないと、感動しない」
っていうことなんです。
よく言うんですけどね、
川久保玲(※註3)が作ったものを、
田舎のおふくろのおみやげに持ってっても、
困るじゃないですか。
そのADの彼女のしゃぶしゃぶでも
「しゃぶしゃぶを食べた」って楽しみだけであって
こっちは
「こないだの肉はどうだ?とか、
 今度の肉はこんなこんな肉だ」とか
比べてた上で
「すげーっ!」て言ったときに、
相手はただ、
「旨いっすよね」言われても
その「旨い」に心がこもってないっていうか。

※註3 川久保玲
69年、"コムデギャルソン"の名で
婦人服の製造販売を開始。
名前の意味は"少年のように"。73年、会社設立。
服飾の既成概念を崩した非構築的で斬新な表現手法は、
多くの外国人デザイナーにも大きな影響を与えた。
洋の内外を問わず、根強い人気を誇る。
darlingの着ている洋服のほとんどは
このブランドであることが多い。。
小山 (笑)それ、頭きますよね。
糸井 うん。頭にくる!
けど、しょうがないですよね。
でも、俺は、どっかに
「あっ!こないだのと違う!」
口先じゃなく言える才能があるやつが
いるんじゃないかと思うんです。
小山 ええ。
糸井 打ち震える才能があるやつが、
いるんじゃないかって。

自前で食ってないとダメですね
小山 そうですね。
若いテレビADの、男の子だったんですけど、
「肉が好きだ!焼き肉が好きだ!」
って言うから、
虎の穴
※註4)に連れてって。
料理長に、
「もうとびっきりのヤツ、出してくれ!」
ってお願いしたら、
「わかりましたーっ!」
って、料理長も張りきって肉を
出してきたわけですよ。
で、食べたら、
「うわっ! うめーっ!」
って感動してて
そいつをパッて見たら、
普通に食べてるんですよ。
「ちょっと待ってくれよ、美味しくないの?」
って尋ねても
「いや、大丈夫です」
って言うわけですよ。
「大丈夫じゃなくって、美味しくないの?」
って言ったら、
「いやっ、あー、大丈夫ですから」
って、言うんですよ。


※註4 虎の穴
とにかくうまい焼肉屋さん。
中目黒に本店がある。
もちろん、タイガーマスクとは
一切関係がない。
糸井 僕の80年代は
その連続でしたね。
小山 そうですか(笑)。

糸井 80年代の僕はいちばん荒んでた時期で、
ゲーム性の強い暮らしをしてましたから。
若いヤツを、
5万円コースのフグとか、連れていって
ただ、ただ世間話してるんですよ。
俺も男だマドロス(※註5)だ、
 そんなこと俺ぁ、おかまいなしだぜ」
っていうポーズをとっていたけど、
ちょっとさみしかった。

※註5 俺も男だマドロスだ
ぼくらスタッフはピンとこないのですが
1950年代後半〜1960年代前半の日活映画は
「波止場」もの「マドロス」ものが
全盛だったようです。
石原裕次郎、小林旭、赤木圭一郎らが
マドロスにふんし、いろんな映画に
出ていたようです。
まぁ、「男を売った」ってことであります。
小山 何か言ってくれよ、みたいな(笑)。
糸井 その頃に連れてったメンバーの中に
みうらじゅん(※註6)とかがいたんです。
後に稼ぎのよくなったみうらが、
「糸井さんにフグをおごらせてください」って。
かわいいとこあるわけですね。
連れていってもらったんだけど、
・・・・・(笑)。ま、その・・・・。
「お前、ぜんぜんわかってないな」
ってほんとは言いたいんだけど、
言えないじゃないですか?
いいやつだし、みうら。
…そっか、やっぱ小山さんもやってんだ、
そういうの。

※註6 みうらじゅん
「バットくん」の次の原稿はいつかなぁ。
https://www.1101.com/miurajun/index.html
一部の「ほぼ日」スタッフ間では
頭文字をとって「MJ」と呼ばれている。
マイケル・ジョーダンとは一切、関係は無い。
小山 はい。
糸井 「しゃぶしゃぶ」って行為にもう喜んでる人って、
次のときにもっと美味しい店に行っても、
おんなじように喜ぶだろうし、
その微妙な差をわかるのって
自前で食ってないとダメですね。
小山 そうですねー。
糸井 おごられてても身につかない。
小山 うん、そうかも知れないですね。
糸井 小山さんだったら、コストとして、
ぜんぶ自分のお金で食いに行くじゃないですか。
社の何かの経費とかじゃなくて。
小山 ええ。
糸井 おごられたりってことでもなく。
だから、基準になる何かっていうのが、
贋作を見分ける方法みたいに、
本物を最初に1回だけ食っておくって
いうようなことってありますよね。
小山 うーん。(深くうなずく)
糸井 小山さんが研究したり
面白がってるゲームを
ぶち壊しにする向こう側の世界っていうのが
あるのと同じように、
素材がね、どうしようもなく旨いとき、
料理を飛び越えて生で食えちゃう、みたいなものに、
僕はまた興味を持っちゃってるんですね。
小山 うん。
糸井 それが、農業まわりですよ。
そこがあったので、
ますます、自分をかき立てる
何かになってるんじゃないかなぁと。思うんです。
畑に今なっているものを
その場で取ってきて食べるっていうことの前に、
料理は何ができるか?みたいな。
小山 うんうんうん。深いですね、それは。
糸井 深いんですよ〜〜。

(つづきます。)

ジブリ学術ライブラリー 人間は何を食べてきたか』
「腰を据えて食べることを考える。
 NHKのドキュメンタリー番組が、人々を動かした。」

2003-02-26-WED


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