こういうやつが、いたんだよ。  赤坂英一さんとプロ野球の話を。        かつて糸井重里は大好きなプロ野球の試合を 年間100試合も観戦していました。 (ひどいですね。観すぎです!) そのころ知り合ったスポーツ担当の新聞記者が、 赤坂英一さんです。 いまは独立されている赤坂さんが、 ひさしぶりに糸井とプロ野球について話しました。 赤坂さんの最新著書である 『キャッチャーという人生』を真ん中に置いて。 プロ野球ファンどうしの会話ですから、 あえて、登場する選手の敬称は略。
 
第1回  こういうやつが、いたんだよ。
第2回  キャッチャーは、ことばの人生。
第3回  抜き書きの人たち。
第4回  藤田さんは覚えていてくれる。
第5回  受け継がれたもの。
第6回  才能と、努力と。
第7回  みんなが前田を語りたがる。
第8回  名監督とは。
 
 
赤坂 これ、糸井さんにおみやげです。
糸井 ああ、プレス用の帽子。
取材に来た記者にくばるやつだ。
赤坂 そうです。
村田真一を取材したときのやつと、
谷繁を取材したときのやつ。
糸井 こういうの、
昔よりモノがよくなってません?
赤坂 そうなんです。
クオリティーをよくする一方で、
個数は減らしてるんですって。
長嶋さんが監督だったときに比べると
3分の1くらいになってるとか。
つまり、ちょっとレアな扱いにして、
「みなさん、取材に来てください」
というふうにしてるみたいです。
糸井 取材に来た人が
誇りを持てるようにしてるんですね。
しかし、そういう取材の歴史についても
赤坂さんは、くわしいよね(笑)。
赤坂 そうですね(笑)。
ぼくは、取材の最下層だったころから
ずっと野球の現場にいますから。
糸井 どうしてプロ野球を
取材することになったんですか。
子どものころからの夢で、とか?
赤坂 それはもう完全に巡り合わせです。
会社の人事です。
糸井 あ、そうですか。へぇー。
赤坂 最初は日刊ゲンダイに入って、
1年半くらいは
ふつうに新聞記者だったんですけど、
ある日、人事から
「明日からスポーツ行きなさい」って。
で、行ったら、
すぐに「神宮球場へ行け」と。
右も左もわかんないんですよ。
行ったら、王さんがいて、
記者がワーッといて、
なんだか人のかたまりが
通り過ぎたなと思ったら、
それが呂明賜(ろ・めいし)でした。
糸井 ああ、ルー・ミンスー。
当時はかなりの盛り上がりでしたね。
赤坂 そうそうそうそう。
二軍から引っ張り上げられて
初打席、ホームラン。
あのときが最初の取材でした。
糸井 その日、何か記事を書いたんですか?
赤坂 はい、書きました。何事によらず
はじめてのときを覚えてるんですが、
その日は、呂明賜に初ホームランを打たれた
ボブ・ギブソンという外国人ピッチャーは
何者かという原稿を書いてます。
糸井 最初から、そういう、
主役の裏にいる人の記事を。
赤坂 そうそうそうそう(笑)。
糸井 今度、出版された
『キャッチャーという人生』もまさに
「陰の名捕手」に光を当てた本で。
なんだろう、読んでて思ったのは、
著者である赤坂さんがまったく
気配を感じさせないんですよ。
赤坂 ああ、それは(笑)。
糸井 見事に現れないんですよ。
で、現れないわりに、
相手はすっごくしゃべってる。
赤坂 そうですね(笑)。
糸井 だから、
スポーツ紙の記者が書くものとしては、
もう理想ですよね。
あの、聞き手が現れちゃう
やり方はあると思うんです。
赤坂 ええ、ええ。
糸井 だけど赤坂さんはちっとも現れない。
だからね、本を読んで思うんだけど、
赤坂さんがなんのために
この本を書いたのかっていうのが、
ほんとうはぼく、わかんないんですよ。
赤坂 はははははは。
糸井 なにしろ、書き手の主張が
ちっとも出てこないですからね。
だから、なんていうんだろう、
好きなふるさとの景色、
みたいなものがあるじゃないですか。
まぶたを閉じたら見える
あの景色を覚えておきたいなぁ
って思ってる、そんな景色。
もしくは、そこにたたずんでる人の気持ち。
そういうものを残しておきたいと
思ったのかな、とか。
赤坂 ああ、でも、そうかもしれないです。
「この人を書きたい」という気持ちは、
自分のなかに、すごくあります。
村田真一のことは書きたかったし、
達川(光男)さんにもお世話になったし、
デーブ(大久保博元)とも思い出がある。
何を書きたいかというと、
やっぱり、そのときの自分の気分なのかなぁ。
それは、この本のなかに
必ずしも直接書いてはないですけど。
糸井 残しておきたいと感じさせる景色が。
赤坂 そうそう、あるんです。
そのまま書いたらちょっと個人的すぎて
いかにも「選手に信頼されてる記者だ」
みたいになっちゃうし、
選手も書いてほしくないだろうから、
直接は書いてないですけど。
糸井 うん。だから、直接書いてないぶん、
ためにはならないんですよね。
「すぐに会社で役立つ洞察力!」
みたいなことは、ちっとも書いてない。
赤坂 ああ、はいはい(笑)。
糸井 こういう本って、いちおう、
そういうふりをしたりするんですけどね。
でも、この本に書かれてるのは、
「いたんだよ、こういうやつが」
っていうこと(笑)。
赤坂 そう、そうです、そうです(笑)。
糸井 「で、こういうやつの向こう側には、
 こういうやつがいたんだよ」と。
赤坂 そうそう、まさにそう(笑)。
糸井 読んでてすごく気持ちよかったのは
そういうところなんですよね。
で、みんな「いたんだよ」って言われてる
「こういうやつ」当人たちも、
「俺の前にはこいつがいた」とか、
「横にはこいつがいた」っていう
周囲の関係をいつでも意識してて、
自分が話してるんだけど自分の話じゃない、
みたいな話し方なんですよね。
赤坂 いや、ほんと、そうですね。
糸井 その気持ちよさがこの本の魅力なんですよ。
それは、やっぱり、赤坂さんが
こういう本を作りたかったんだろうな。



(つづきます)
2009-12-08-TUE
 
   
 
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