第6回 怖いけれど続けます

糸井
「シャッターを押すのとほほえむのが一緒だ」
ということがわかって、小鳥さんについて、
「じゃあ、永遠に撮れるね」って思いました。
小鳥
本当ですか?
糸井
だって、ニコっとほほえむ気持ちがありさえすれば、
ずっと撮り続けられるじゃない?
小鳥
なんか想像しちゃいました(笑)。
糸井
ほほえめなくなることもあると思うよ。
嫌な仕事を我慢してやってたら、撮れなくなるね。
小鳥
ああ。気をつけます。
糸井
さて、だいぶ時間も迫ってきましたけど、
せっかく小鳥さんがいらっしゃるんだから、
質問とかあれば答えますよ。

あっ、手が挙がった。
女性
こんにちは。
あの、おふたりにお尋ねしたいんですけれども、
写真を撮ることだったり、文章を書くことだったり、
何か表現することって、怖いと思うことはないですか?
糸井
じゃあ、僕から先に。

怖いですよ。
僕は、文章を書くことが仕事ですけど、
怖いし、好きじゃないです。
毎日嫌だけど「こんなこと考えたんだ」という文章を、
僕が書く以外に読むこともできないんで、
それで毎日書いている気がします。
毎日怖いし、毎日面倒くさいし、毎日嫌だし。
書かなければ攻撃されないのに、書くから責められる。
でも、同時に喜んでくれる人がいる。
何もしないっていうのは怖くないんですけど、
せざるを得なくてしてるのかもしれないですね。
ひと言で言えば、怖いです。今も怖いです。
女性
ありがとうございます。
糸井
小鳥さんはどうでしょうね。
小鳥
僕も怖いですよ。
でも、糸井さんでも怖いんだなと思ったら、
ちょっと怖くなくなりました。
糸井
怖いからって、他の要素がないわけじゃないですよね。
「楽しい」とかもあるし。
小鳥さんは、写真を撮るのは好きですか?
小鳥
‥‥はい。
糸井
「はい」ですか。ずいぶん間が空きましたけど(笑)。
あの、僕はね、文章を書くのは好きじゃないんですよ。
それははっきりしてるんです。
小鳥
へぇー。
糸井
何もしないで、人がやったことだけを眺めて、
楽しんでいたいんですよ。
だから、もし長い休みがあったら、
どれほど何もしなくていい場所を選ぼうか、
真剣に考えますね。
僕がバリ島とかを好きな理由って、
何もしないのに日が暮れていくからなんです。
「それなのに、なんでそんないっぱい
 いろんな仕事をするんですか?」って、
きっと思われるでしょうけど、なんででしょうね。
小鳥
(笑)
糸井
好きじゃないっていうことは、
言っちゃったほうが楽だったりします。
女性
はい。ありがとうございました。
糸井
小鳥さんも、間があったのがおもしろかったね。
小鳥
そうですね。
糸井
なんだろうね。
仕事にしない時のほうが好きだったかもね。
小鳥
そうなんですか?
糸井
僕はそうかもしれない。
思わぬところで他人が褒めてくれる時って、
ものすごくうれしいじゃないですか。
小鳥
ああ、はい。
糸井
でも、仕事になっちゃったら、
誰かに褒めてもらわないと
仕事にならないじゃないですか。
小鳥
あぁ。
糸井
その環境でいつもやっているのは、
楽なことじゃないですよね。
小鳥
そうですね。
糸井
たとえば、いろんなものを食べて評論する
グルメ評論家と呼ばれる人がいるじゃないですか。
山本益博さんという人がいるんだけど、
彼は、中華料理についてだけは書かないんですよ。
なぜかっていうと、何も考えずに、
仕事にしないで食べるジャンルが1つくらいないと、
全部が仕事になっちゃってうれしくないから。
だから、中華料理だけは評論してないんですよ。
小鳥
ああ、そうなんですか。
糸井さん、東京にいる時に
何も考えないでいられる時間ってありますか?
糸井
家にいる時か。うーん、ずっと考えてるな。
一番考えているのは、他の人の作品を見ている時です。
小鳥
あぁ。考えていらっしゃるんですね。
糸井
「いいな」っていうものが来れば来るほど、
「いいなぁ。どうして?」とか考えて、
ちょっと忙しくなるんです。
小鳥
へぇ。
糸井
‥‥さて、こんなことでいいでしょうか。
金沢の街には、また改めて
ご飯を食べに来たいと思います。
小鳥
今日は、本当にありがとうございます。
途中からうなずくだけになっちゃったんですけど、
お客さんも、すごい楽しかったですよね?
観客
(拍手)
小鳥
ありがとうございました。
糸井
ありがとうね。じゃあ、どうも失礼します。