あの『未来ちゃん』の川島小鳥さん、
		3年ぶりの新作が
		すごい造本だなと驚いていたら
		版元は、やっぱりナナロク社だった。

	第1回
	またナナロク社だった。
ほぼ日
あの大ヒット作『未来ちゃん』以来、
3年ぶりの写真集を
川島小鳥さんが出版される、
それも「何だこれは!」というような造本で
すごそう、見てみたい、
でも、つくるの大変だったろうなあと
思ってたんですが
版元が「ナナロク社」さんだと知って
「ああ、やっぱりか」と。
村井
どういう意味ですか(笑)。
ほぼ日
これ、タテの写真はタテ長のページに、
ヨコの写真はヨコ長のページになっていて
表紙はカドを落としてますよね。

少なくとも数千部は刷るものでしょうし、
ぼくら素人から見ても、これはきっと、
実現にこぎつけるまでには
紆余曲折あったろうと容易に推測できまして。
村井
はい、ありました。いろいろ。
ほぼ日
他方で、個人的にですが
最近「いいな」と思う本がナナロク社だった、
という現象が続いたんです。
村井
名前をつけたいです、その現象に(笑)。
ほぼ日
11万部売れた『未来ちゃん』はともかく
岩崎航さんの詩集『点滴ポール』
昭和33年、バラバラ殺人事件を捜査する
二人の刑事を追ったドキュメンタリー写真集
『張り込み日記』
タイ人のイラストレーター・タムくんによる
かわいい似顔絵カレンダー‥‥。

HPで販売を請け負っているだけとはいえ、
まるまる一冊「宅老所」のこと特集した
福岡のぶっ飛んだ雑誌『ヨレヨレ』
目をつけるのもすごいし、
昨年の木村伊兵衛賞を獲ったのも
ナナロク社の写真集でしたよね、たしか。
村井
森栄喜さんの『Intimacy』です。

いや、そんなにたくさん言ってもらって、
ありがとうございます!
ほぼ日
何百冊も出している大きな出版社なら
わかりますけど
ナナロク社さんって、
決して大きな会社じゃないじゃないですか。
村井
小さいです。4名ですから。
ほぼ日
4名様! 社長以下? 予想以上に小さい‥‥。
村井
はい、4名様(笑)でやっております。
社長のぼく含め。
ほぼ日
そんなわけで、すごい出版社だなあと
日頃から思っていたところに、
この、おそろしい造本の写真集が来たんで、
「またナナロク社か!」と。
村井
何度も言いますが、ありがとうございます。
ほぼ日
さまざまご苦労あったと思うのですが
そのあたりから
お話、お聞かせ願えませんでしょうか。

まず著者である小鳥さん、どうですか。
小鳥
はい。なんでこのカタチになったかというと
デザイナーの佐々木暁さんが
「全ページ、裁ち落としがいい」って言って。
ほぼ日
ちなみに「裁ち落とし」というのは
余白を設けず、
ページいっぱいに写真をレイアウトする手法。
小鳥
ぼくは、裁ち落としじゃないイメージでした。
だから「えぇ?」と思って、
いえに帰って、いろいろ考えてみたんです。

写真にはタテとヨコがあるけど
どうやったら
「ぜんぶ裁ち落としにできるのかな?」って
考えていたら
「あ、こうすればいいや!」って。
ほぼ日
で、思いついたのが、この形?
小鳥
はい、タテの写真もヨコの写真も、
同じサイズ、平等な形で、
そのまま綴じればいいんじゃんって思って、
手づくりしました。
村井
そう、次の打ち合わせのときに
ほぼ完成形に近いつくりのダミーブックを
持ってこられたんですよ。
ほぼ日
へぇー‥‥。
村井
それを見て、その場の全員が「すごい!」と。

でも、みんな驚いて、すごいって思って
感動すらしたんですけど
一方で、出版人としての「常識」があるから
「すごいけど‥‥できるのか?」と。
ほぼ日
思いますよね。
村井
デザイナーの佐々木さんと小鳥さんと
編集を担当したうちの坂下とぼくとで
「こういう本やりたいよね。
 でも、こういう本がやりたいという気持ちを
 うまく表現した現実的な形があるよね」
みたいな感じで、
神保町のカフェでモゾモゾしていて。
ほぼ日
誰も「これ、やりましょう!」って
言い切れない状態だったってわけですね。
村井
そう、正直いって
不安と希望とがないまぜとなってたんですが
最後は「感動負け」したというか、
「すごい」という気持ちが勝ちました。

だから、次の打ち合わせからは
「じゃあ、どうやってつくろう?」という方向で
話が進んでいったんです。
ほぼ日
では、具体的に苦労した点は‥‥って、
たくさんあると思いますが。
村井
まず、印刷所さんの段階で
「これは無理です」っておっしゃるところが、
いくつかありました。
ほぼ日
受けられません、と?
村井
はい、製本の工程で無理ですっていうことで。

でも「ぜひ、やりましょう!」と
言ってくださるところが、見つかったんです。
ほぼ日
おお。
村井
最終的に、
京都にある美術印刷のサンエムカラーさんが
印刷を担ってくださり、
ネックだった製本を担当してくださったのが
篠原紙工さんという会社でした。
ほぼ日
奥付のところにが
「バインディング・ディレクション」という
見慣れないクレジットが。
村井
そう、この『明星』のためにつくった言葉で、
「製本監督」くらいじゃないと
この本の製作過程を表現できないなと思って。
ほぼ日
小鳥さんも、そういった造本の進行の状況を
逐一、お聞きしていたんですよね?
小鳥
もう、現場に直接お話しに行ってました。

写真家本人が製本所に行くって
あんまり、やらないみたいなんですけど。
ほぼ日
写真家の人が、印刷所へ行って
「印刷立ち会い、刷り出し確認」をするとは、
よく聞きますが‥‥。
村井
そう、今回の場合は「製本立ち会い」でした。
めったにないことだと思います。
坂下
基本的には
製本所からの意見を印刷所が集約して、
私たち編集者に伝えてくれるっていうのが
ふつうの流れなので。
ほぼ日
表紙のカドを落とすのも大変なんでしょうね。
ぼくらがパッと見たら、
あ、切れてるって思うだけですけど、実際は。
坂下
この部分は、
できあがった表紙を斜めに切るんじゃなくて
あらかじめこの形の型をつくり、
表紙は1枚1枚、手で貼っていただきました。

その際に塗る「糊」についても
はがれにくいものを、特別に開発したんです。
ほぼ日
試行錯誤の連続、その産物であると。
村井
デザイナーの佐々木さんも素晴らしくて
この形になるってだけでよろこんでた僕らに
「そこで終わったらダメだよね」って
釘を刺してくださったんです。

つまり、買ってくださった人に
「ここ、なんか、ちょっとベコベコしてるけど
 しょうがないか、こういう本だし」
って思わせちゃったら絶対にダメだから、と。
ほぼ日
完璧なものを出すべきだと。
たしかに、お金を払っているわけですものね。
村井
さらに、もっとすごいなあと思ったのが、
初顔合わせのとき
小鳥さんのつくったダミーブック、
つまり「デザイン案」に
いちばん感動してたのが佐々木さんなんです。
ほぼ日
そうなんですか。
村井
「これは銀河系初です!」って言って。

ま、ふつうだったら、デザイナーさんに、
形あるものを見せるのって
やっぱり少し、緊張するじゃないですか。
ほぼ日
専門家なわけですから、
ある意味、勇気が要るかもしれませんね。
村井
でも、本当に率直におもしろがってくれて、
小鳥さんのやりたいことを尊重しつつ、
さらに実際の本として成り立つデザインに
してくれたんです。
ほぼ日
さすがプロ。
坂下
印刷・製本の工程がはじまってからも
現場のプロたちが
「ここは、もっとこうしたほうが」とか
細かい部分で、
日々、改善を重ねてくださっています。
村井
そういうプロのみなさんがプロの技で
つくってくれたので
「この本は、どうしても買ってほしい。
 そのためには
 どうやっても本として売れる値段に
 設定しなきゃだめだ」
と思ったので、
どうにか3000円という「青春価格」に抑える
ことができました。
ほぼ日
「青春価格」(笑)。

たしかに、これだけ凝ったつくりなのに
写真が好きな若い子でも買える、
写真集としては、ふつうの値段ですよね。
村井
そうなんです。
ほぼ日
しかも、実際の印刷製本がはじまってからも
日々、改善が重ねられるって
何か非常に今っぽい感じがしますね(笑)。
村井
そう、手作業の、極めてアナログな本なのに
「ver1.0」「2.0」みたいな(笑)。

実際、読者のみなさんにお届けするのは
「ver5.0」くらいです。
ほぼ日
で、そうやって出来上がったのが、この本。
小鳥
はい、『明星』って言います。

川島小鳥『明星』より 

<つづきます>

2015-02-10-TUE

information
小鳥さんの最新作、『明星』。

3年間で30回、台湾に通って撮りためた
約7万枚の写真。
『明星』には、そのうちの200枚ほどが
収録されています。
クスッと笑えたり、
ジッと目を離せなくなったり、
どこかノスタルジーを感じたり。
『未来ちゃん』の延長線上にありながらも
新しい小鳥さんに出会えます。
でもやっぱり「ああ、小鳥さんの写真だー」と
思えるような作品が並びます。
見ていて、たのしい写真集です。

明星

『明星』
川島小鳥 ナナロク社 3000円+税
ご購入はこちらのナナロク社さんのページ
ごらんください。

その『明星』の期間限定ショップを
		 TOBICHIにオープンします。

「HOBONICHIのTOBICHI」で
『明星』の期間限定ショップをオープンします。
会場では『明星』を
本屋さんに並ぶすこしまえに
立ち読み・ご購入いただけるほか
小鳥さんが台湾で撮った写真を展示し、
小鳥さんが台湾で見つけた雑貨を
すこしだけ、販売したりもします。
台湾の雰囲気を
のんびりと感じられるようなお店ですので、
気軽にあそびにきてください。

明星 ~小鳥がのぞいた台湾~

会場 HOBONICHIのTOBICHI
住所 東京都港区南青山4-25-14
会期 2015年2月11日(水・祝)~2月15日(日)
時間 11:00~19:00
※くわしくはこちらの特設ページをご覧ください。

川島 小鳥(かわしま・ことり)

写真家。1980年東京生まれ。
早稲田大学第一文学部仏文科卒業後、
沼田元氣氏に師事。
2006年、第10回新風舎平間至写真賞大賞受賞。
2007年、写真集『BABY BABY』 を発売。
2010年、大ヒット作『未来ちゃん』で
第42回講談社出版文化賞写真賞を受賞。
2014年、谷川俊太郎さんの詩と
コラボレーションした『おやすみ神たち』を発売。
そして2015年、3年間で30回、
台湾に通ってつくった待望の最新写真集
『明星』を刊行。

とじる