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 『朝が来る前に』
 秦基博

 
2009年(平成21年)

この曲を聴くと今でも
旅立つ日のあの
薄青い世界を思い出します。
(なゆた)

いつかここでまた会えるよ
ねぇ そうだろう


「これ、まさに俺らのことだよね。」
そう言って、
彼が聴かせてくれたのがこの曲でした。

世界中を旅して周りたい! 
と、彼が言い出したのは
付き合って4年くらい経った頃でした。

遠距離恋愛未経験のわたしでしたが、
彼がやりたいと思うことならと、
離れてもわたしたちは、大丈夫だろう。
行っておいでよ。
と、今思えばとても楽観的に下した決断でした。

あっという間にやってきた、彼が旅立つ日の朝。

当時住んでいたわたしの千葉のアパートから、
成田空港へ向かう彼を見送るために、早起きして。

早朝の、薄青い世界の中、
駅までの道のりを2人で歩きながら、
大きなリュックを背負った彼の背中を、
目に焼き付けようと必死だったのを覚えています。

まるでいつも通りのようなお別れでした。
2人とも、言いたいことは
たくさんあったはずなのに。

ひとりでぼんやりと、
もと来た道を歩いて帰りました。
玄関のドアを開け、
あ、彼の靴がない、と気が付いた時に。
それがどういうことかやっとわかって、
強烈なさみしさに涙が止まらなくなりました。

ちょうど3年前の3月11日のことです。

彼が旅立ってから、
わたしのまわりの環境は目まぐるしく変わり、
すっかり精神的に不安定になってしまったことや、
簡単に会いに行けない距離や、
彼のいる環境とのギャップなど、様々な要因が重なり、
わたしからお別れを切り出しました。

時は経ち、わたしは実家に戻り、仕事も変わり、
ゆるやかな日々がやってきて、
彼と一緒に過ごした5年間は、
わたしにとって、宝物になりました。
時々箱から出して、
きれいだなぁと思って眺める、
愛おしい時間です。

ちなみに、わたしの新しい恋は、
まったく始まる気配はありませんが。

少年のように繊細で、
まっすぐな心を持つ彼のしあわせを
心から願っています。
この曲を聴くと今でも、
旅立つ日のあの薄青い世界を思い出します。

わたしの話は
宝箱にしまっておこうと思っていたのですが、
恋歌口ずさみ委員会が終ってしまうということで
思いきって、投稿させていただきました。

(なゆた)

聴いたことがなかったので
探して聴きながら投稿を読んでいたら、
文章と音楽が溶けて
どっちがどっちだかわからなくなりました。
いい曲ですね。

メールが届いたのは2014年の4月でしたから、
彼が旅立ったのは、震災の日だったのですね。
早朝に旅立ったとき、たぶん、街はいつもどおりで。
だからこそ、家に帰ったときの不在が、
唐突に空いた深い穴みたいに
感じられたんじゃないでしょうか。

その朝の青が
こちらにも伝わってくるようでした。

このコンテンツが終わることで、
背中を押されるように、
投稿してくださった方が多く、
締切間際に素敵な思い出がたくさん届きました。
それも、残り数通になりました。

旅立つひとを見送るって、
せつないことですよね。
本人はうれしくて、
うしろを振り返りもせずに、
あるいは、振り返ったとしても、
思いっきり元気に手を振ったりして、
出かけていったりするんだけれど
(早朝だとなおさら、そんな感じ)、
見送るほうは「ぽかん」と、
こころに穴が開いたような気分になる。

「まるでいつも通りのようなお別れでした」

というのも、とってもよくわかります。
いつも通りだったら、
かならずまた「ただいま!」って帰ってくるはず。
‥‥だったのに。
彼はいまどこでどうしてるんだろなあ。

ぼくも秦さんのこの曲を知りませんでした。
旅立つ瞬間の歌って、
きっといっぱいあるんでしょうね。
そしてどれも、「いいなあ」って思います。

お別れの瞬間や、ものを手放すそのときには、
ことの重さがいまいちわからないのですが、
あとでじわじわ、じわじわ、やってきます。

きっかけは突然でも、
たいていの事象はグラデーションになって
人に響くのではないかな、と思います。
たぶん、死も生も、すごく多重構造になっていて、
人が経験として受け止めるものは
複雑なのではないか。
だからとても個人的で
ほかの人がかんたんに決めつけることはできない。

でもこうやって、わかちあったり
ちょっと共感できたりします。

宝箱の思い出、送ってくださって
ほんとうにありがとうございます。
きれいな日々があることは
これからの暮らしを彩ってくれる。
いいなぁ、と思います。

2011年3月11日の早朝に(なゆた)さんは、
大きなリュックを背負った彼を見送っていたのですね。
あらためて、あの日の午前中を思い出しました。
そうでした。
ありふれた金曜の朝でした。
(なゆた)さんはあのとき、
静かなお別れをしていたのですね。
「じゃ、行ってくる」「うん、行ってらっしゃい」

彼と過ごした5年分の思い出をまるごと取り出して、
「きれいだなぁ」と言えるお付き合い。
すてきです。
そんなふうに思える(なゆた)さんもきっと、
彼と同じくらいまっすぐな心を持っているのでしょう。

お別れ直後の胸に穴がぽっかりとあいてる期間は
どうしようもなく切なくって、
切なすぎるから他のことでまぎらわしたりするけれど、
ふと、ゆるやかな日々がやってきたときに、
「どれどれ?」と穴のなかをのぞいてみれば、
あれもこれもぜーんぶひっくるめて
愛おしい宝物になっていたりしますよね。
このコンテンツを通して、
そんな宝物が世界中にたくさんあることを知りました。
このページの下にも、いっぱい並んでいます。
みなさんの宝物。

次の宝物は土曜日に。
あとすこし、お付き合いください。

2015-02-18-WED

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