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 『恋愛症候群
  ーその発病及び傾向と
  対策に関する一考察ー』
 さだまさし

 
1985年(昭和60年)

誰かに迷惑をかけるからとか、
そういうこと以前に、
私自身が幸せだと感じられないから
(ひろこ)

処が一年二年とたつうち
見えてくるんですよ
恋とは誤解と錯覚との闘い


先日、この曲を久しぶりに聴いて、
自分史上最大の「誤解と錯覚」を思い出したので、
その思い出を送らせていただきます。

私が「恋と呼ばれる一過性の発情症候群」に
冒されたのは、20代後半のこと。
彼とはお互いフリーランスで、
同じ仕事場に出入りしていたのが
きっかけで知り合いました。
私より20歳近く年上のベテラン職人さんでしたが、
仕事に対する考え方が似ていたこと、
そして好きな食べ物や音楽などが同じだったことから、
急速に仲良くなり、一緒に食事をしたり、
コンサートに行ったりしているうち、
あれよあれよというまに、一線を越えてしまいました。

当時40代だった彼には、
当然のことながら妻も子どももいましたが、
私自身は、以前からそういう関係にばかり
陥りがちだったこともあり、
「ああ、今回もまたこのパターンかあ」と、
わりと平然と受け止めていました。

大好きだけど、別に結婚したいなんて
思わない(ようにする)。
デートの後は、彼がまっすぐ家に帰っても
気にしない(ふりをする)。
彼とのことは、おおっぴらに
人前で話すことができなくても、
私といるとき、私を一番大事に
してくれればそれでいい。
「不倫慣れ」していた私にとっては、
それが二人の関係を続けるためのルールであり、
そのルールを当面、守り続ける自信がありました。

ところが彼にとっては、
家庭外恋愛なんて人生初の経験だったらしく、
今思えば、自分の気持ちの暴走ぶりを
自分自身で受け止めきれず、
たぶん最初から最後まで、
うろたえていたんだろうと思います。
そりゃあ即バレますわね。
彼の家庭は修羅場となり、
彼は「私をとるか、家庭をとるか」という
二者択一に追い込まれていったのでした。

そうなると私も、押し殺していた気持ちが
バーッと盛り上がってきて、
「どんな犠牲を払ってでも、彼と結婚したい」
と思い始めてしまいました。
「こんなに話の合う人は、初めてなんだから」と。
ただ、具体的に「二人が一緒になる」ことを
考え始めると同時に、
二人の「話の合わないところ」が、
どんどん目に付くようになってきたのです。

そもそも私は、自分の行動は自分で決めて、
お互いに趣味や予定が合わないものは、
各自が自分の都合で単独行動して、
後で報告し合えばいい、と思うタイプ。
対して彼は、いつも二人で相談したうえで、
常に一緒に行動したいタイプ。
私は友達が多くアウトドア好きなのに、
彼は友達が少なくてインドア派。
落ち着いて考えてみれば、
こんな根本的なところで価値観が違っていたら、
「話が合う」もへったくれもないんですが、
そこはそれ、恋愛中は、
「食べ物着るもの見るもの聴くもの
 すべて好みが合う」と思い込むわけで。
私も「こんなに好きなんだもの、
彼と一緒にいられるのなら、この先、
友達との旅行も飲み会も、一生行けなくてもいい」
とまで、思い詰めていました。

ま、最終的には、
彼がどうしても家族と離れる決心がつかず、
私が、そんな彼に嫌気がさして
距離を置く決心をし、私たちは別れたのですが、
別れて最初に襲ってきた感情は、なんと、
寂しさでも悲しみでも憎しみでもなく、
実に清々しいまでの「解放感」でした。

ああ、これでもう、友達と遊びに行くことを
後ろめたく思わなくていいんだ。
休日の予定は、
自分で決めて自由に行動していいんだ。
そう感じた自分に対して、私は思わず
一人突っ込みをしたことを覚えています。
「あんた、そんなんでよく
 結婚しようなんて思ったな!」。
そう、まことに
「恋とは誤解と錯覚との闘い」だと
気づかされたのでした。

その後、何年かして、私は別の仕事場で、
同業の5歳年上の男性と知り合い、
10年近い付き合いと同棲期間を経て、
昨年入籍しました。
今の旦那は、価値観や好きなものが
同じだと感じる部分も多いのですが、
そうでない部分についても、
私がやりたいことにはまったく口を挟まず、
自由にさせてくれます。
元彼のときのような激しい恋愛感情は、
最初から現在まで全然ありませんが、
お互いに強固な信頼と愛しさ、
おだやかな甘えを持ち寄って成り立つこの関係は、
間違いなく「愛」であると断言できます。

そしてもう一つ、今の旦那とつきあって、
気づいたことがありました。
不倫は、なぜしてはいけないのか。
それは、誰かに迷惑をかけるからとか、
そういうこと以前に、
「私自身が、幸せだと感じられないから」なんだ、と。
正直、今でも、不倫という関係そのものは、
悪いことだとは思っていません。
恋愛はすべて、一対一の関係であり、勝負だから。
ただ、今後、ああいう関係には踏み込みたくないし、
友人がそういう関係に陥っていたら、
やめたほうがいいよ、と言いたくなるのは、
「不倫じゃ、自分自身が幸せになれない」
と痛感したからです。
相手とのことを誰にも言えない関係が、
いかに不健康で心を病ますものか。
そのことを、私は旦那とつきあい始めて、
誰彼かまわず気軽に「彼氏がね〜」と
周囲に言いふらせるようになって、
初めて思い知ったのでした。

ほんと、恋って一種のアレルギーだと思います。
あの恋があったからこそ、
気づいたことはたくさんありますが、
あのときあのまま突っ走らなくて、
本当によかったです。
愛しい旦那に出会えて、私は心からしあわせです。
元彼とのことは、もちろん、
このまま墓場まで持っていきます。

(ひろこ)

さだまさしさんの『恋愛症候群』の歌詞が
あちこちに上手に引用されている投稿。
少々長めですが、一気に読んでしまいました。

『恋愛症候群』という歌は、すごく簡単に言うと、
誰しも恋に落ちた瞬間は、あばたもえくぼで、
相手の欠点すら好ましく思えるけれど、
つき合ううちにそれが錯覚だとわかってくる。
そして、恋は心が枯れて消えることもあるけど、
変わらぬ「愛」に形を変えることもあるよ、
という、序盤コミカルで後半グッとくる歌です。

不倫の投稿はこれまでにもたくさん届きましたが、
経験者が「なぜしてはいけないのか」を
明確に示したことが新鮮でした。

そうかあ、モラルとか、迷惑以前に、
「自分自身が幸せになれない」から。
たしかに、それはそうなのかもしれない。
でも、激しい渦の中にいるときは、
それを後回しにしてしまうものなんだろうなぁ。

うん。たしかにそれはそうなのかもしれない。
「自分自身が幸せになれない」からというのは、
その道を歩いた人の言葉として説得力があります。

最初からそういう関係にならなければ‥‥
という声も聞こえてきそうですが、
なんといいますか、
是非の前に、心の反応は起こってしまうわけで。

なんにしても「よかった」と思いました。
別れることでそんな大きな解放感があるなんて、
それはやっぱり、倫理以前の理由で、
「やめといてよかった」ことなのでしょう。

よかった、です、ほんとうに。
「愛しい」とそんなにまっすぐ言える旦那様に会えて。
そうですね、どうぞそのことは墓場まで。
お幸せに!

修羅場を描いてもどこかクールで、
ちょっとユーモラスなこの感じ、
「解放感」というキーワードで、
なるほどそこに向かっていたのかと、
読んでいてすっきりしました。
なるほどなあ。

いっぽうで、ややこしいことに
「私自身が、幸せだと感じられないから」
ということに、
恋愛の醍醐味を感じちゃうひともいる、
というような物語も、
古今たくさんございます。
でも、アレだよね、
それはやっぱり「よみもの」として味わうのが
いいのかもしれないですね。
じぶんのことではなくね。

ぼくがさだまさしを聴いていたのは
中学生の頃、ごく一時期だったので、
プログレやロックに染まっていた
大学時代である1985年にに発表された
『恋愛症候群』という曲は、
まったく知りませんでしたが、
おお、さすがのさだ節。
最後の1行なんてもう!

人に言えないことがあったり、
行動や思いを縛られることが長年に及ぶと、
けっこうなストレスになりますよね。
夢中なとき‥‥それこそ「恋愛症候群」の最中は
「だからこそいい」と思っていたことも
のちのち重荷になってのしかかります。
恋人でも親子でも友人でも仕事でも、
そういうことはあります。

それまで人とおしゃべりできなかった恋バナが
公にできるようになるって、そりゃ
大きいことだと思いますよ。
泣けちゃうくらい、よかったなぁと思います。
不倫は悲しい思いをします。
慣れている人たちというのはいるけど、
(ひろこ)さんが書いているとおり、
「気にしない(ふりをする)」
というふうに思えてしまう。
症候群が終わるまで、待つしかない。
そうして、がまんしてた人が
自由になっていくのはとてもいい!

なんだろうな、恋愛にかぎらず
そういう「恋愛症候群」的なものって
運命的に襲ってくるのかな。
夢中になった→ああ、自由になった→夢中になった
というくり返しで、
結局は自分が大好きな、手放せないものや人が
手もとに残っていくのですね。

投稿全体が、心が引き込まれるすばらしい文章で、
たいへんおもしろく読みました。
ありがとうございました。

ではまた、土曜に。
さだまさしさん、あらためて
たくさん聴きたくなっちゃいました。

2014-10-22-WED

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