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 『リフレインが叫んでる』
 松任谷由実

 
1988年(昭和63年)
 『Delight Slight Light KISS』収録

何度も受話器を取り
ダイヤルするのですが、
最後の数字が
押せなかった。
(夏の終り)

どうしてどうして僕たちは
出逢ってしまったのだろう


19歳の夏。
バイト先で出会った彼は25歳。
天然パーマの頭にメガネ、
穏やかな笑顔のごくごく普通の
周りの友人よりも少し大人の人。
板前の彼は、東京に結婚を反対されている
1つ年上の恋人を残し、
彼女の両親に認められるために
一生懸命修行していました。
私たちバイトの仲間はそんな二人を
心から応援してました。

でも、突然に私はバイト中も
ずっと彼から目が離せなくなってしまったんです!
目が合うと優しく微笑む彼の笑顔で
動けなくなる位に・・・!
きっと彼はわかってたんじゃないかな?
あまりにも不自然な私の態度だったから。

その頃にこの曲を何度も何度も聞きました。
彼と恋人の幸せを願っていたはずなのに、
彼を欲しいと願う自分の心があることが
汚らわしく感じられて。
こんない苦しいなら出会わなきゃ良かった・・

そんなある日のバイト上がりに、
辛い恋に悩む友人が「海が見たい」と言い出しました。
彼が車を出し、友人と私と三人で
明け方の海へ走りました。

友人が一人悲しみに浸る波打ち際を
少し離れた所で見守る彼と私。
ゆっくり歩いていた時に
砂に足を取られて転んだ私に手を差し出しました。
その手は友人が振り向くまで
ずっとつながれたままでした。
私の恋心はきっと手のひらを伝わっていたはずです。
彼の手は優しくて暖かくて、
私は嬉しくて嬉しくてでも悲しくて・・
私たちは一言も話さなかったけれど、
彼は微笑んでくれました。
私も笑顔を作ったつもりでしたが、笑えていたのかな?

大人ぶっていたけれど、恋もよくわからない私は、
自分がどうなってしまうのか怖くなって
バイトを辞めました。
バイト先のみんなとも連絡をとらずに夏は終わりました。

着ている洋服が秋色になったころ、私の20歳の誕生日。
友人たちにお祝いをしてもらい、ほろ酔いで部屋に帰ると
留守電のメッセージランプが点滅していました。
「誕生日おめでとう。すごく会いたい」
彼でした。
聞いた途端、涙が溢れました。

何度も受話器を取りダイヤルするのですが、
最後の数字が押せなかった・・
結局連絡はしませんでした。
その後友人からも会いたいと言っていると聞きましたが、会いませんでした。
まだ涙が出るほど大好きで大好きで大好きで!
それでも勇気がありませんでした。
いつか恋が終わることが怖くて・・・・・
(始まってもいないのに!)

若かったな〜わたし。
でも、きっと今でも同じことすると思います。
彼がどうしているのかは知りません。
あの時の彼女と幸せであったらいいな〜と
やっぱり思っているのです。

(夏の終り)

つらい恋に悩む友人と、
東京に恋人を残し修業する男の子と、
その男の子に恋をしてしまった、(夏の終り)さん。
それぞれのせつなさをかかえて訪れた海。
彼は、天然パーマにメガネ、
(夏の終り)さんは19歳。
そのまま(むかしの)少女マンガに描かれそうな
シチュエーションだなあ。
ほんと‥‥どうして出逢っちゃうんでしょうね。

『リフレインが叫んでる』は
いきなりサビから始まる
「♪どうしてどうして僕たちは
 出逢ってしまったんだろう」
という部分からして強烈で、
ぼくの世代だと唄えない人はいないんじゃないか、
というくらいの認知度。
はじめて聞いた時のインパクトだけを、
(どういうシチュエーションで聞いたのかは
 すっかり忘れちゃったんだけど)覚えてます。

どぼちてどぼちて、ほんとーに
出会っちまうんだろうなぁ。
もうちょっと、彼女よりもはやく会えたら、って
思ってしまう。
きらめく海に日記を捨てたりさー、
3回鳴らして電話を切ったりさー、
夢のなかでいいから思い出してほしいしさー、
なんじゃ、ユーミンの歌詞にぜんぶ出てくるじゃんか!

わたしは、その、
最後の番号を押せない人が、
好きです。
よくやったよ。
いっしょにケーキ食べて、
泣きながらドライブしたい(危ない)。

ていうか、ドライブの前の
「ケーキ食べて」はただの願望じゃないか。
いや、それにつけても、
この曲の冒頭のフレーズの印象の強さよ。

しかも、投稿にあった、
「明け方の海でそっと手を取り合う」
みたいなシチュエーションを提示されたら
あっという間に脳内に鳴り響くよ、
あのピアノのイントロが。

「好きなのに応えられない」。
このコーナーにしばしば登場するこの状況。
どうして、踏み出せないんだろうねぇ。
でも、だからこそ、こうして思い出に
残り続けているのかもしれません。

♪どうしてどうしてぼくたちはー

そうですね、踏み出せないから、大切な思い出に。
海辺できらきら。
つないだ手と手の緊張感。
せつないなぁ、いいなぁ。
ほんとにもう、世の中には無数に
こういうすてきな物語がちりばめられているのですね。
その途方も無さに‥‥わくわくします。
アツアツのそれも、かなわないそれも、
ダメダメなそれも、すべてかけがえがない。

その彼は、どうしているんでしょうねー。
たいした根拠はありませんが、きっと幸せでいる気がします。
一生懸命修行をしていた人ですもの。
(夏の終り)さんが好きになった人ですもの。

すてきな投稿をありがとうございました。

次は、土曜日にお会いしましょう。
投稿は締め切りましたが、
ご紹介したいストックはまだまだございます。

2014-06-25-WED

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