『ひょっこりひょうたん島』
 前川陽子・
 ニューハードオーケストラ

 
1964年(昭和39年)

20年以上がたつ今も、
心の中の「たからもの入れ」に
しまってあります。
 (匿名希望)

泣くのはいやだ 笑っちゃおう 進め


クラスで一番小柄で、
ちっとも男前ではなかったけれど、
実はしっかり者で、いつもおどけていて、
私は彼のことが気になって
しかたがありませんでした。

席替えでは、近くの席になれるように。
委員会決めでは、同じ委員になれるように。
遠足の班も同じ班がいいなあ。
授業中には、ちょっとでも目が合うといいなあ。

視線を送りすぎて、友人にはバレバレだと言われ、
たぶん彼も「すげー見られてる」くらいには
気づいていたでしょう。

彼のつぶやく一言一句を聞き逃すまいとしたおかげで、
テレビをほとんど見ない私は、
いろいろなことを初めて知りました。
ひょっこりひょうたん島の歌、
ビリーバンバン、当たり前田のクラッカー。
ちなみに他のクラスメートは、
光GENJIやTMネットワーク、
BOΦWYなんかで騒いでいたので、
今思えば、ずいぶんと世間とずれた人だったんですね。

校内の合唱コンクールでピアノ伴奏を引き受けた私に、
本番直前、「伴奏者賞、取れよ」と
声をかけてくれました。
その言葉は私だけに与えられた特別な言葉として、
20年以上がたつ今も、
心の中の「たからもの入れ」にしまってあります。

バレンタインデーには、
板チョコ一枚を団地の集合ポストに投げ込みました。
手渡しはおろか、赤やピンクの包装や
リボンも気恥ずかしく、
おそろしく素っ気ない包装だったと記憶しています。
完全に不審物です。捨ててしまったかな。

卒業式の帰り、
「バイバイ」って声をかけてくれてありがとう。
(匿名希望)

「伴奏者賞、取れよ」かあ。
いいなあ。
いま口に出してみたけど、
おそろしく言いづらい言葉ですね。
ばんしょうしゃしょうになっちゃう。
「伴奏者、伴奏者賞」って3回言える?

「たからもの」を持ってる人は、
とてもつよい。そう思います。
彼の団地の集合ポストに投げ入れた
おそろしく素っ気ないチョコレートは、
もちろん食べたと思いますよ。
そしていまも、きっと彼の
「たからもの」になってると思うな。

それにしても、
光GENJIやTMネットワーク、
BOΦWYの時代に、
ひょっこりひょうたん島の歌、
ビリーバンバン、当たり前田のクラッカー!
そりゃ世間とずれているというより
タイムスリップしてきたみたいな人ですねー。
楽しかっただろうなあ、そんな男の子。

ところで「ひょっこりひょうたん島」は
たぶんぼくがはじめて買ってもらったレコードです。
大好き。
みなさま素敵なヴァレンタインを!

声をかけてもらったこと、
どきどきしながらポストに放り込んだこと、
そういうことって、
憶えているんですよねぇ、ずっと。

自分でも、小学校のころの
とるにたらないやり取りをずっと憶えてたりして
あらためて驚くことがあります。
こういうこと、いつまで憶えてるんだろうなあ
と思いながら、ずっと来ちゃった感じ。

だから、きっと、合唱コンクールのこと、
席替えのこと、遠足のこと、
バレンタインの日にチョコレートが
ポストに入ってたこと、
彼もずっと憶えてると思いますよ。

最後の2行、まるで自分の思い出みたいに
一瞬、胸が締めつけられました。

ばんそうしゃしょう、ばんしょうしゃしょう、
ばんしょうしゃひょう。言えません。
彼、ほんとに、かっこいいな。

みんながBOΦWYで騒いでるときに
ひょっこりひょうたん島なんて、
彼はおじいちゃん子だったのかな。
さっぱりしてておどけた性格から
そんなふうに想像してしまいます。

バレンタインデーに、
男子がどんな心境でいるか、
チョコレートをもらったら、どうか。
男子の母である私はよく知っています。
「ああ、こんなによろこぶのなら
 もっと気やすくあげときゃよかった」
と思います。
そして、もらった家族もうれしいですから、
100パー彼の手にわたって、
100パー彼は食べている。
ただし、うちの子はもらう数が少ないので、
モテる男子がどうなのかはわからない。

いい投稿だなぁ‥‥。
思い出しちゃったので、自分の思い出をひとつ。

高校時代(男子校)の出来事です。
バレンタインデーにチョコをもらった友だちが、
とうとつに泣きだしました。
泣きながら、板チョコを食べていました。
「‥‥○○子のこと、そんなに好きだったんだ」
と声をかけたら、
「いや、そうでもない」
と友人は答えました。
とにかく、「うれしかった」のだそうです。
それは彼にとって
うまれてはじめてのバレンタインチョコでした。
友は、涙をぬぐいながら言いました。
「こういうのってマンガのなかのことだど思ってだ。
 すげぇ‥‥。
 自分には関係ねえこどだど思ってだのに、もらえだ。
 山下‥‥
 おれたち、これがら先の人生、
 すげぇことがいっぱいあるぞ。
 この、チョコよりすげぇことが。
 頭がおかしくなるくらい楽しみだなぁ」

雪が積もる30数年前の福島市。
まだ山下はチョコをもらったことがなかった頃のお話です。

というわけで、バレンタインデーの特別更新でした。
いつもは水曜と土曜にお届けしていますが、
きょうはやっぱりねー、恋の話がしたいじゃないですか。

そしてあしたは土曜日です。
もちろん通常の更新がありますよー。
あしたも、お会いしましょー!!

2014-02-14-FRI

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