『幸せになるために』
 松任谷由美

 
2001年(平成13年)

彼が結婚するという
風の便りがありました。
 (真珠のピアス)

明日になれば あなたのことは
もう 思い出さないでしょう
私にとって あなたにとって
もっと幸せになるために

大好きな彼とは学生時代4年間365日一緒に過ごし、
結婚するものと思っていました。
が、あっけなくお別れすることになり、
当時はいろいろありましたが、
時が心を癒してくれ、新しい人とのご縁もあり、
今は一児の母となり元気に幸せに生きています。

別れてから10年たち、
もう完璧に彼のことは忘れたと思っていた最近、
彼が結婚するという風の便りがありました。

聞いた瞬間の自分の動揺ぐあいにびっくり。
ショックなのか、嫉妬なのか、
哀しみなのか自分でもわからない動揺。
自分は結婚して子供もいるのに
動揺するなんて居心地も悪くて。
そして、
彼のことが今でもこんなに好きなんだと気づいてしまった。

動揺している自分に動揺していると気づいた時の動揺。
授乳中も料理中も彼が頭から離れない離れない。
安定した幸せな生活に突然訪れた動揺の嵐!
いやぁ大変でした。

実際は彼ともう一度やり直すことを
望んでいるわけでもなく、
人生の多感な時期に
一緒に過ごした思い出が多すぎて情が深すぎて
心が過去に縛られているのかな。
と、嵐の期間をなんとか乗り切って分析してみました。
彼のことが今でも好きですが、
自分のためにそろそろ思い出を解放したい。
心から彼の結婚を祝福したい。
私の一番の笑顔で素直に彼に
祝福を伝えられるように祈ってください。
お互いが幸せになるために、
なによりも私が幸せになるために。
このメールを送信するのと同時にもう彼のことを忘れます。
(忘れられないかもしれませんがまた封印します。)

(真珠のピアス)

なかなか生々しい、
いま現在、動揺している女性からの投稿です。

「このメールを送信するのと同時にもう彼のことを忘れます。」
と、いったん投稿を締めておきながら、
最後にこれ↓を書き加えていらっしゃる。
(忘れられないかもしれませんがまた封印します。)
ここがかわいいなぁと思いました。

無責任な私見にすぎないのですが、
その想い出は
たいせつにしていてもいいのではないかと思います。
なんかね、ぼくなんか、そういう記憶いっぱいですよ。
過去のことを想うのは、
思い出すことですごく切なくなったりするのは、
果たして今の伴侶を裏切ることになるのでしょうか‥‥?
オーケーじゃないかとぼくは思います。
‥‥暴言?

いずれにしましても、
動揺がおさまることをお祈りいたします。
そんなに不安にならないでー。

そういう愛の激情に揺れる母の変化を、
おさなごは、気付くのだろうか‥‥と、
ひじょうにどうでもいいことが気になってしまいました。
「なーんか、へんなんですけど、かあさん?」
とか思ってたりして‥‥。

それはともかく、山下のコメントにかぶせますと、
ぼくも「いいじゃないですか」と思います。
なにより嵐をやりすごすことができてよかった。
どうにかしようと思ったってどうにかなるもんでも、
たぶん、なかったろうし、
忘れるよりも糧にする強さと、
それこそ「幸せになる」ちからが、
(真珠のピアス)さんにはあるような気がします。

自分でも気づかない自分の気持ちというのがあって
それがまるで「嵐」のように
吹き荒れることがあります。

それは「彼が結婚する」という情報でなくとも、
恋歌だったり、いつか聞いたことばだったり、
風景だったり‥‥なにがスイッチになるかわかりません。

「自分は結婚して子供もいるのに
 動揺するなんて居心地も悪くて。」
がなんとリアルでしょう。

きっと時間が解決してくれる、と思おうとしたのですが
別れてから10年経ってるんですよね。
はぁぁぁ(sigh)。
思い出の解放、微力ながら
この掲載でできるといいなぁなんて思いつつ。

この連載中に何度も語られてますけど、
恋愛というのは、
理屈ではどうにもならない。
好むと好まざるとにかかわらず、
不条理な勢いでもって、人は恋に落ちる。

であればこそ、「恋を忘れること」も
理屈ではないのだなぁと、
いただいた投稿を読んで感じました。

そういえば、ものすごく深い恋愛が
「ある瞬間にびっくりするほどあっさり冷めた」
という投稿だって、たくさんありましたものね。

たぶん、その恋を忘れるとか忘れないじゃなく、
ちいさな家族との騒々しくも楽しい日々が
すべてを上書きしていくんじゃないでしょうか。

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2013-05-29-WED

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