いつもくちびるに、季節の風とラブソングを。
こんにちは、恋歌くちずさみ委員会です。

あまずっぱい企画は、とっても好評!
たーくさんの、おたよりがとどいています。
みなさんの、
たいせつなたいせつな思い出の「恋歌」、
どんどん紹介していきますね。
なのでどしどし、おたより(メール)くださーい!

自分で固く閉ざした扉を、
ノックが聞こえてくるんじゃないかと眺めてた。
(投稿者・後ろ姿パンダ)
 霧に走る
(シングル「かなしみ笑い」B面)
 中島みゆき

 1980年(昭和55年)
 
My恋歌ポイント

 次のシグナル 右に折れたら
 あの暗い窓が 私の部屋
 寄っていってと もう何度も
 心の中では 話しかけてる

 指を伸ばせば あなたの指に
 ふれると なんだか 嫌われそうで
色んな人が言ってたね。
「俺、お前に必要とされてないみたい」
「お前は強いから一人でもやっていけるよ」

私だって言いたかった。
「今日は私のそばに居て」
「行かないで」
「好きです」

言えるわけないじゃない。強がりな私が。
貴方の心を占めている好きな子が、
友だちが、仕事が、
趣味が、奥さんが、
今この瞬間は私より大事なんだとわかるから、
私は自分を抑えてしまう。
だから駄目だとわかっていても。

恋をするたび嬉しくて。
欲すれば失うようで。
困らせるのが怖くって、
嫌われるのが怖くって、
物分かりがいい顔をした。
仲良しのまま居たかったから、
自分をいつも後回しにした。
みっともないことなんてできないと、
泣き顔を見られないうち車に飛び乗った。
こんな辛い思いするくらいなら一人でいいと、
灰皿の中で写真を燃やした。
鎧を脱ぐのは一人で過ごす部屋の中でだけ。
そんなことしてばっかりだった私の恋。
そうやって、いくつもいくつも失った。
閉じられた、あるいは断ち切るように
自分で固く閉ざした扉を、
ノックが聞こえてくるんじゃないかと、
耳を澄ましていつまでもいつまでも眺めてた。
そんなことあるわけないのにね。

言いたいことを言わずに居たから、
溜め込んだ末に言い放ったから、
そうしないでいれば在った未来を、
私はいくつも見ないまま。

「言いたいことがあるなら、
 黙らずに今言うてよ。
 そやないと俺わからんままやん」

そう言って、
黙る癖が身についてる私を混乱させた彼と
結婚をした。
黙る癖はまだ直らないけど、
もう未来を捨てたくない。

霧の日は必ず繰り返し口ずさむ。
あの頃の切ない気持ちを思い出しながら。
あの人たちは、
元気で暮らしているだろうかと思いながら。
素直でなかったあの頃の未来は、もう深い霧の中。

ふはぁ〜〜(息継ぎ)。
とっても中島みゆき的な内容で、
ずっと涙をこらえているような
緊張感のある文章。
このお話、いったいどんなふうに
展開していくんだろう?
(後ろ姿パンダ)さん、
いまも、そのままなの?
‥‥と思って読んでいたら、

「言いたいことがあるなら、
 黙らずに今言うてよ。
 そやないと俺わからんままやん」

という関西男子のせりふで急展開。
扉、ノックされたんですね。

「好きだけど言えない」
というテーマの恋歌は
古今たくさんあると思いますし
中島みゆきさんもいっぱい
つくっていると思いますが、
そんななかでもこの
「霧に走る」は、名曲のひとつだと思います。
歌の中では霧が車の中にまで忍び込んできます。
ずっと待つ女である主人公は
「いっそ」と、ある心情を語ります。
ぜひ曲を聴いてみてくださいね。

はふぁ〜〜〜(溜め息)。
一行一行、心を込め、
正直に、丁寧に、絞り出すようにして、
書かれているお気持ちが
深く静かに伝わってくる投稿でした。

そしてそう、中島みゆき的な投稿文。
みゆきさんの朗読する声が聞こえてくる気がします。
あまり中島みゆき的でないと言えるのは、
最後の幸せへの急展開の部分でしょうか。
そしてそこが、
この投稿でいちばん(後ろ姿パンダ)さんらしい
部分なのだと思いました。

ちなみに(後ろ姿パンダ)さんの投稿には、
このコンテンツへの感想も添えられていました。

「(抜粋)このコーナーを呼んでいると、
 高校生の頃、友だちの家へ泊まりに行って
 恋の話で夜更かしをした時のような
 弾む気持ちになります!」

はつらつと明るいご感想。
自分を抑制するような緊張感ただよう投稿との
そのギャップにもなんだか、
「おー、中島みゆき的」と感激しました。
みゆきさんのオールナイトニッポン、
底抜けに明るかったなー。

ふにゃ〜〜〜(床にぺったり)。
一文一文、息をつめるように
読ませていただきました。
歌のようだ。

こうありたいな、と思う自分が
どんどん強くなっていって、
言いたいことが言えなくなる。
そうなるとなかなか抜け出せない。
ものわかりのいい自分の手から
するりと抜けていったものもあるけど、
抜けてったものはしょせん、
抜けてったものなんだもの。
私は、そう思うことにしてました!

でも、中島みゆきさんの歌は
そこにもうすこし目を向けてもいいんだよ、と
教えてくれます。
みゆきさん以外、いません。
シェフも言っていますが
この「霧に走る」の
「いっそ」のあとの心情がすごいよ。
そこまで、願ってもいい。

そうそう、みゆきさんのオールナイトニッポン、
はじめて聞いたとき、あまりにカラッとしてて
びっくりしたなぁ。
歌もラジオも大好きでした。
どっちのことも、ちゃんと拾い上げて、
歌やおしゃべりにしてくれる。
中島みゆきはすごいです。

あーーー、いいなぁ(感嘆)。

あるアーティストを好きな人が
曲を深く聞き込むあまり、
文体まで似てきてしまうことがある。
この「恋歌口ずさみ委員会」を
通じて知ったことのひとつです。
とりわけ、中島みゆきさんのファンは
その傾向が強いと思います。

もう、この投稿に、
誰かが曲をつけてもいいんじゃないか。

そしてこの曲をぼくは知りませんでしたが、
投稿をきっかけに聴いて、
もう、好きになっています。
知らない名曲との接点をもらえることも、
このコンテンツをはじめて
得たもののひとつです。

もう、いい歳だから、
自分の好きなものだけをくり返していても
十分にいい時間は過ごせるのだけれど、
それ以外にやまほどある、よいものを
手軽に提示してもらえるのは
ありがたいことだなあと思います。

そんなきっかけを、まだまだ募集中。
つぎの更新は、土曜日です。

2012-04-11-WED

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