いつもくちびるに、季節の風とラブソングを。
こんにちは、恋歌くちずさみ委員会です。

あまずっぱい企画は、とっても好評!
たーくさんの、おたよりがとどいています。
みなさんの、
たいせつなたいせつな思い出の「恋歌」、
どんどん紹介していきますね。
なのでどしどし、おたより(メール)くださーい!

けっして一方的に独りぼっちに
されたつもりはなかったのだけど
(投稿者・makiko)

『突然の贈りもの』
 歌/大貫妙子

 1978年(昭和53年)
 アルバム『MIGNONNE』収録曲
 

My恋歌ポイント

 別れもつげないで
 独りぼっちにさせた
 いつの間にか六度目の春の日
 置き忘れたもの なにもかも
 そのままにあるの 
 幸福でいたなら それでよかった

大学2年の秋から3年の夏にかけて、
サークルの先輩とお付き合いをしました。
彼は本気で音楽活動を目指していたギタリストでした。

私は入学以来ずっと好きな男性がいたのですが、
でもその人にとって私は恋愛の対象ではなく、
常に「いい友達」止まり。
女の人と歩く姿を見てはがっかりしたり、
たまに親切にされては、
せつない思いを積み重ねていました。
 
そんなとき、学祭のイベントを機に、
先輩であるギタリストの彼と
あっさり恋に落ちてしまったのです。
全然タイプじゃなかったはずなのに。
ぐいぐい自分に迫ってくる感じと、
彼の音楽に心がとらわれてしまったのかな。
3つ年上の彼は、
自分よりずっと大人で頼もしく見えました。

音楽の話をするときの彼のきらきら感。
雪国の冬だったけど、寒い部屋に二人でいることも、
雪の中を寄り添って歩くことも楽しかった。

でも、東京での音楽活動を目指していた彼でした。
春には卒業して、夏までには環境を調えて
上京することはすでに決まっていました。
期限付きの恋であることは暗黙の了解でした。
あっという間に夏はやってきて、
二人の将来の約束も何もなく、
次の日上京するという彼と、
晴れた夏の日の夕方にお別れしました。
あまりにあっけなくあっさりと、
蝉の声と夕焼けの中、途中まで送ってくれた彼と
いつものようにさよならしました。

自分とはまったく違う世界に
行こうとしている彼の未来には、
私の未来は重ならないと、
最初からわかっていたのかもしれません。
最後のあたりは、妙にものわかりのいい彼女を
演じていたのかもしれません。
 
彼はきちんと別れを告げたし、
私はそれを自分の意志で受け止めたし、
けっして一方的に
独りぼっちにされたつもりはなかったのだけど、
何年かして、この歌を聞いたとき、涙があふれました。
 
私はやっぱり彼のことを
無意識のうちに待っていたのだろうか、と
歌の世界に自分の思いをかぶせては、
決してないはずの彼の訪れを期待したりして。

何年たっても彼が私に連絡をくれることは、
ありませんでした。
そして私は音楽とあまり縁のない、
文学青年と結婚しました。
あれから25年以上の年月。
私には「突然の贈りもの」は届きはしませんでしたが、
あの夏に選んだ人生がここにあります。
ときどきセンチメンタルにはなるけど、
じゅうぶん元気で、幸せです。

あの日お別れしたギタリストのあなたも
幸せでいてほしいです。

すばらしい投稿で
読んでいて切なくなりました。
恋と歌が見事に重なっていて、
思わず、『突然の贈りもの』を聴きながら
読み返してしまいました。

白眉はやはり別れの描写。
あまりにもあっさりといつものように。
雪国の夏に、蝉の声と夕焼けと。
読んで浮かぶ透明感のある風景は、
大貫妙子さんの声と歌に
とてもよく似合います。

最後のところにある、
「じゅうぶん元気で、幸せです。」
というフレーズも、とてもいい。
「人生」ということばに
「幸せ」を並べようとすると
いろんなことがぼやけるのですが、
「元気」をはさむと安定するんですね。

今日はしばらく大貫さんの歌を聴きます。

ご本人のサッパリした印象とことなり
大貫妙子さんのうたう世界には
この「突然の贈り物」のように、
“ずっと思いを寄せ、待つ女性”
が登場したりするんですよね。
そもそも大貫さんって、
出会いや恋に落ちたことのよろこびを
歌にするのが、とてもじょうずだと思うけど、
「ずっと好きでいることが、
 わたしをささえている」
っていうのかな、そういう感じもする。
ぼくは『note』というアルバムが好きで、
ときおり聞き返しています。

ところで。
「自分とはまったく違う世界」
っていうのって、やっぱりあるのかなあ。
ぼくはそのふたりが出会った以上、
なにかの意味はあるんだと信じたいんだけれど、
そういうのを、
運命のいたずらって言うのかなあ‥‥。

十分に考えて、納得して、
こころをしっかりと保って、
後悔のないお別れをしたはずなのに‥‥
数年後、
ふと耳にした歌に涙があふれる‥‥。

無意識というものがほんとにちゃんとあって、
それはかなり「動物」な部分なのかもしれないと、
(makiko)さんの投稿を読んで思いました。

(makiko)さんの、
全体を貫くきりっとした文体が好きです。
きっとご本人も、
誠実で控え目だけれど、強い、
そういうお人柄なのではないでしょうか。

「あの夏に選んだ人生がここにあります。」
というフレーズにもしびれました。

私は、自分では
あっさりした性質だと思っています。
過ぎたことは振り返らない、執着なし、
というか、執着というものを
嫌っているのかもしれない。

そんな私なんですけれどもね、
自分でもびっくりすることがあるんですよ。
『突然の贈りもの』フロム自分ですよ。

道端にいて、あるいは
webを見ていて、あるいは
ディズニーランドのカリブの海賊に乗っていて
(やけに具体的なのはお気になさらず)、
ふと思い出してしまい、さらに
思いを塗り重ねてしまうことがあります。

やー、過去について、しつこいしつこい。
しつこく何か、思ってんのねー、と気づく。
自分がしつこいから、執着が嫌いだったのですね。
それゆえ、こころが複雑にざわめくことから
逃げ出したいのです。

(makiko)さんの、涙があふれました、
というところで、手を取り合いたくなりました。

わーー、大貫妙子さん! かんにんして、
こういう歌がほんとうにするどいんだ!
この『突然の贈りもの』も、それから『横顔』も
そういう意味でほんとにすばらしく‥‥
わーーーーーー!!!

次回は土曜日ーーー!!

2012-01-11-WED

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