第1話 やっと会えました。

糸井
ぼくは今日、はじめて小林さんにお会いしました。
このイベントの機会を利用して
小林さんに会えた、
みたいなところがあります。
小林
はい、やっと会うことができて、うれしいです。
糸井
こちらこそありがとうございます。
ツリーハウスというものは
子どものときには、
「あんなのがあったらいいな」「作りたいな」
なんて思うんですが、
実際には、子どもの力ではできないですよね。
小林
そうですね。
でも、アメリカなんかでは、
ツリーハウスまでいかなくても、
子どもが遊びのなかで
家の物を持ち出して場所を作り、
中で遊ぶというようなことをやってますね。
日本でいう「秘密基地」の延長のような。
糸井
ぼくも子どもの頃、
近所にいいケヤキの木があって
真似ごとをしたおぼえはあるんです。
ただ、「床にあたる部分」を作ったところで
挫折して‥‥。
小林
うん、完成しないですよね。
そう‥‥、完成しないんですよ。
糸井
そのままずっと「やりかけ」で、
おぼえてるんだけどやる機会もなくて、
そのままになっていた。
ツリーハウスは、いわば
「心の中の忘れもの」のような存在だったんです。
小林
はい、ぼくもそういう感じでいました。
ツリーハウスって、そういうものなんでしょうね。
それを、あるていど大人になったときに
思い出してやりだした‥‥それが、このところ
広まりつつあるのではないでしょうか。
糸井
そんな未完成の思い出だけがあったぼくは、
震災後、東北に通うことがなければ
おそらくツリーハウスのことは
思い起こしませんでした。
2011年の震災で
海の側の町が被害を受けました。
亡くなった方もいらっしゃる、家や工場が流された、
土地の値段はこれからどうなるか、堤防をどうするか、
建物を建てられない場所も出てくるだろう、
問題がほんとうにたくさんあります。
小林
そうですね。
糸井

100年、200年のレベルで考えれば
いずれ必ず、なんとかなるとは思います。
しかし、いま鉄道が止まってるということ、
いま人に来てほしいということ、
そういうことにぼくらは
目を向けたいと思っていました。

「ほぼ日」は気仙沼に事務所を持っています。
気仙沼は海の町というイメージなんですけど、
そうじゃなく、半分が山なんです。
山側にも気仙沼があるということを
もっとよろこびたいなぁと思いました。

でも、ふつうの人が用もないのに
山に入る理由は、あまりありません。
だけどもし、ツリーハウスがあったら、どうだろう?
そういう観光のしかたも生まれるんじゃないかなと
思いついたのです。

小林
なるほど。
ある日山を見て、そう思ったんですか?
糸井
はい。山の木を見ながら、
「林の中を歩きましょう、という
 キャンペーンはなかなかできないけど
 ツリーハウスがあるから行く? と言われれば
 行くなぁ」
ってね。
小林
そのとおりですね。
糸井
ツリーハウスの下にテーブルがあって、
ラジオでもかかってて、お茶でも飲めたら、
それはあんがい、東京や福岡から行った人が
「あそこでお茶飲んできたよね、
 みんな、あのツリーハウスは行った?」
というように、人に話してくれるんじゃないかな。
ただ、そのときにすぐに思ったのが
「実はツリーハウスって、難しいんだよな」
ということでした。
小林
ええ、そうですよね。
糸井

「俺、このまま考えていったら、
 ふつうの仕事とおんなじように、
 難しいという理由で、やめるな」
と思ったんです。
で、そこからはもう「やるに決まってる」と
頭を切り替えて気仙沼の市役所に行き、
「こういうものを作ろうと思うんですが
 実現できるでしょうか」
と言ってみました。
もちろん、いろんなことを言われるのは
覚悟のうえです。
日々の仕事のなかでも、
ここが困る、
こういう問題についてはどう考えてるんですか、
そんな話ばかりと接してますからね。

だけど、気仙沼の市役所の人たちは
「そういうおもしろいことを、ぼくらは
 やりたかったんですよ」
と言ってくれたんです。
やっぱり、「やりたいです」という人たちと組むことが
大事だと思うんですよ。

小林
それはいつごろのことですか?
糸井
一昨年の11月です。
小林
なるほど。1年ちょっと前ですね。
‥‥ぼくはちょうど半年ぐらい前だったかなぁ、
「東北でツリーハウスが
 100個できるらしいけど
 コバさんがやってるんですか?」
とまわりから言われて、
「え?いや、俺は、知らないけど‥‥
 ちょっと待って、それどういうこと?」
糸井
そうだよね(笑)。
小林
「100個、なにそれ?」
糸井重里さんが
東北にツリーハウスを100作ろうという話を
あちこちから聞いてるけど、知らないの? と。
「えー、そうなの?」
糸井
うん、うん。
小林
俺は20年かかって100個なのに、
どうやっていっぺんに100個作るんだ?
と思っていたところに、
今回のトークのお話が来まして(笑)。
糸井
小林さん、絶対に、
怒ってたと思います。
小林
いやいや(笑)。
糸井
それは怒って当然だと思う。
小林
そんなことはないです。
でも、どうやってやるんだろう?
とふしぎに思っていました。

(つづきます)

2014-04-16-WED

はまぐり浜のツリーハウス。

この対談は、1月に福岡のヤフオク!ドームで開催された
リユース!ジャパンプロジェクトのイベントで
行われました。
このイベントに来場されたみなさまが
お持ちくださった古着と
チャリティオークションの費用で建設されているのが、
石巻のはまぐり浜のツリーハウスです。
古着を寄付してくださった福岡のみなさまのメッセージは
はまぐり浜のツリーハウスの開始式で披露されました
いま、ヤフー石巻復興ベースをはじめ
たくさんの方々の力を借りながら
はまぐり浜のツリーハウスを作っています。
いつか、小林崇さんともいっしょに
ツリーハウスを作れればうれしいなぁ、と思います。

小林崇
(こばやし たかし)

1957年生まれ。ツリーハウスクリエーター。
1994年にツリーハウス建築の世界的権威として知られる
ピーター・ネルソンに出会い、
オレゴン州で開催される
ワールド・ツリーハウス・カンファレンスに
日本代表として参加をはじめる。
2000年、ジャパン・ツリーハウス・ネットワークを設立。
2005年、ツリーハウス・クリエーションを立ち上げる。
世界各地の風土、樹木に適した
ツリーハウス制作を続けている。

小林崇さんのWEBサイト

© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN