小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。

其の五拾九・・・・結婚式


「この山ですね、先生」

「いや、違う。これは男体山や。式場はこの裏山や」

小林先生と弟子の北小岩くんは、
先生のいとこの結婚式に出席するために栃木県にいる。
男体山の裏手には男根山というもっこりとした霊峰があり、
式はそこで行なわれるのだ。

「山頂近くに関所のようなものが見えるやろ。
 あれが式場の門やな」

先生と北小岩くんが到着し中に入ろうとすると、
門番に呼び止められた。

「ここで礼服に着替えてください」

二人は礼服に白ネクタイという恰好をしていたのだが、
男根山は通常の結婚式とは服装が異なるらしい。
門番から渡された袋には、ブリーフが一枚あるだけだった。
仕方なく服を脱いでブリーフに履き替えると、
北小岩くんが大声をあげた。

「先生、このブリーフはスケルトンです!」

透明のビニール製なので、アソコが丸見えである。
おまけにぴっちりしているために、
ちんちんがつぶれたハゼのようになってしまいなさけない。

門番 「着用しない人はここを通れません」

仕方なくその姿で控え室に行くと、
老若男女を問わず全員がスケルトンブリーフを履いていた。
上は裸である。
新婦側友人の美しいお嬢さんの姿が見えた。
先生のブリーフの中は、一気に真空状態になってしまった。

「それではこれからチン前結婚式をとり行います」

北小岩 「私、チン前結婚式は初めてです。
 それにしても神主さんの頭の張り型、
 生々しいですね」
小林 「あの方は神主やないで。
 チン前結婚では、
 式は神主の代わりに発起人が仕切る。
 だが、発起人とは呼ばれずに、
 勃起人(ぼっきにん)と呼ばれるんや」

スケルトンブリーフを履いた
かわいい巫女さんの吹く尺八にのせて、
新郎新婦が登場した。
新郎は紋付袴にペニスケース、
新婦は白無垢に貞操帯という出で立ちだ。
ペニスケースと貞操帯には家紋が描かれている。



「それでは69度を行ないます」

勃起人の声が響く。

北小岩 「69度って何ですか?
 普通、三三九度じゃないですか」
小林 「チン前結婚は、
 神前結婚よりプラス思考なんやな。
 三三九度の三と三をプラスすると六やろ。
 残りの九で69や。
 新郎側の男は新婦側の女と、
 新婦側の女は新郎側の男と組み、
 向きが逆になるように
 横に寝そべって
 お互いのモノを鑑賞しながら杯をかわす。
 この裸のおつきあいで、
 新郎新婦の親戚・友人の仲が
 一気に深くなるという寸法や」
勃起人 「では、お隣りの男女で組んでください!」

小林先生が人数を数える。
男が一人あまる計算だ。
ということは、あまった一人は
あのかわいい巫女さんと69度ができる。
先生は北小岩くんの耳元でつぶやいた。

小林 「君は隣りの高齢の方と69度をしなさい」
北小岩 「でも、それでは
 先生のお相手がいなくなってしまいます」
小林 「なに、気にせんでもええ」

先生がこっそり巫女さんに近づいていくと、
勃起人が前をふさいだ。

勃起人 「あまった人は、
 勃起人であるわたくしとする
 ならわしになっております」

先生は勃起人と69度をするはめになってしまった。
69度を終えた北小岩くんが
うれしそうに戻ってきた。

北小岩 「先生、いかがでしたか。
 私は高齢の方が
 その娘さんと代わってくださいまして、
 非常にいい思いをさせていただきました」
小林 「・・・なあ、北小岩。
 お前、俺が誰と69度をしたのか知ってるやろ。
 勃起人のアソコは
 笏(しゃく)のような形をしておった。
 さすがチン前に仕える男と感心したが、
 見ていたらだんだん気持ち悪くなって
 とてつもない悪酔いや!!」

小林先生が珍しく激怒した。
式は新郎が誓いの言葉を読み上げる精子奏上、
愛の印をやりとりする恥垢の交換など
つつがなく進行していった。

勃起人 「さあ、ご結婚された
 お二人の初めての共同作業です!」

陣太鼓の音に合わせて、
新郎がペニスケースを放り投げた。
新婦も貞操帯をはずす。
新郎新婦は全裸になり、
式場横にある急な流れの川に入っていった。
金玉を金色に塗った益荒男たちが、
山の向こうから3メートル以上もある
巨大な木のおちんちんをかついで来て川に流した。
参列者たちは思わず息を飲む。
もの凄い勢いで木ちんちんが新郎新婦を襲う。
だが、二人は巨大なちんちんが
流されないようにふんばると、
必死の形相で押し返した。



小林 「男はな、独身時代にモテなかったヤツでも、
 結婚すると案外モテるようになるもんや。
 新郎のちんちんには、
 これからいろいろな誘惑がある。
 ちんちんはとても流されやすいんや。
 かといって、男は結婚したからには
 自分のイチモツに責任をもたねばならん」
北小岩 「そういえば、夏目漱石さんも
 情にサオさせば流されると書いておりました」
小林 「そうや。
 男のサオはな、
 結婚後に他の女性にさしてしまうと、
 そのまま情を感じてどこまでも流されてしまう。
 家庭崩壊の始まりやな。
 だから、今からそうならんように
 二人とも死力をつくしとるんや!」

太鼓の音が止み、
益荒男たちが川に入り張り型をかつぎ上げた。
その瞬間、全力を出し切った新婦が倒れた。
新郎が抱きかかえ、熱い口づけをする。

「よくやったぞ!」

参列者から歓声が上がる。
新郎新婦の頬を涙がつたわる。

北小岩 「これほど感動的な結婚式は見たことございません。
 私が結婚する時は、チン前結婚式に決めました。
 その時は、ぜひ先生に勃起人をお願いします!」
小林 「うっ」

小林先生はあまり乗り気ではなかった。
なぜならば、もしも男があまってしまったら、
そいつと69度をしなければならないからだ。
先生の勘は、ほとんど外れたことがない。

2001-10-11-THU

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