KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の参百参拾四・・・自動販売機

「ママ、あれ買って!」

「だめ!」

「なんで!」

「だめよ!」

「はこがキラキラしてキレイだよ」

「だめ!早く来なさい!!」

「痛いよ〜」

「ハハハ、
 耳を引っ張られて連れて行かれましたね」

母と子の滑稽な会話をのぞき見て
微笑んでいるのは、弟子の北小岩くんであった。

北小岩 「お薬屋さんの店の横角にある
 自動販売機といえば、
 相場が決まっております。
 ガキんちょには
 関係のない世界でございます。
 それに大人だって、
 お天道様の高いうちに近づくのは
 憚られますし、
 そうでなければ品のないゲスな・・。
 あっ、先生!
 販売機の口に手を突っ込んで、
 何をしてらっしゃるのですか」
小林 「北小岩か。
 昼間から乳繰り合おうと企てている
 若いヤツらがおるやろ。
 買ったブツを収穫しようと
 しているタイミングで人が近づくと、
 恥ずかしがってとらずに
 逃げていくケースがあるんや。
 残っていたら頂戴しようと思ってな」

この男こそ、本物の外道であろう。

小林 「ところで町の中心部にある
 自動販売機広場に
 いろいろなマシンが入って、
 おもろいらしいで。
 行ってみよか」

二人合わせて所持金が20円しかないのだが、
ともかく広場に向かった。

北小岩 「けったいなものばかりございますね」
小林 「そやな」

突然、中学生の争う声が。

「お前やってみろよ!」

「ぜってぇやだよ。ありえねぇ」

どん

「あっ!」

ぶちゅ〜〜〜〜〜〜

それはキスの自動販売機であった。
しかし、相手は生身の人間ではなく・・・。

「止めろよ!
 俺、ダッチワイフと
 ファーストキッスしちゃっただろ!」

「わははは」

500円入れると
シリコンでできたダッチワイフのような人形と、
かなりディープなキスが楽しめる
マシンだったのだ。

 
小林 「糞ガキなど、
 一生ダッチワイフと乳繰り合っとれ!
 それより北小岩、
 あそこのちんちんの自動販売機が
 気にならんか」
北小岩 「そうでございますね。
 でも気乗りいたしません」
小林 「さっき入ったヤツがな、
 金だけ入れて何もせずに出て行ったのを
 目撃した。
 俺が試してくるわ」

自分のブツの型をとり、同じ大きさ、同じ形の
石膏ちんちんが出てくる自販機だった。
自動証明写真機で写した後のように、
機械の外で白い息子の到来を待った。

小林 「ご開陳や。どや、見事やろ!」

その時ちょうど、
ボンテージファッションに身を包んだ、
スレンダーだが意地悪そうな女が通りかかった。

意地悪
そうな女
「何よそれ、
 ペットボトルのフタぐらいしか
 ないじゃないのよ!」
小林 「・・・」

図星をさされた先生は何も言い返せず、
ただ立ち尽くすのみであった。
町の自販機広場には、
どこにもない類のマシンが数多置かれている。
このようなものがあったところで、
いいことなどひとつもないことは確かであろう。
 

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2011-02-27-SUN

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