KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百六拾九・・・練習

ぷ〜。

どこかから屁の音がする。
そっとのぞいてみる。
小林先生宅の縁側のあたり。
座禅を組んだ男が二人。

小林 「何やこの派手すぎる匂いは。
 北小岩、お前、
 実まで出したんやないのか!」
北小岩 「申しわけございません。
 わたくし、先生の
 『屁はすれど実は出すな』の教えを
 遵守してまいりましたが、
 不覚をとったのかもしれません」
小林 「座禅の型だけは、
 鎌倉の大仏様のように立派なんやが」
北小岩 「大仏様にも、申しわけが立ちません」
小林 「しゃあないわ。
 鎌倉まで行って、拝んでくるか」

相も変わらず、会話には意味がない。
ともかく二人は、鎌倉に向かうことにした。

小林 「さすがに歩いていくのは無理やな。
 寒くて耳が霜焼けになってしまうわ」
北小岩 「そうでございますね」

師弟は阿呆面をさげながら、電車を待つ。

北小岩 「改めて観察いたしますと、
 いろいろな方がいらっしゃいますね。
 あそこの方は、
 何をしているのでございますか」

背広を着て、頭をポマードでてからせた男が、
長い雨傘で架空のボールを打つポーズをとっている。

小林 「ほほう。
 バブルの頃はよく見かけたが、
 まだおったんやな。
 彼はな、ゴルフのパターの練習をしとるんや」
北小岩 「どれほどの効果があるのかは疑問ですが、
 随分練習熱心なのでございますね」
小林 「向こうでは遠投をしているヤツがおる」

50メートルほど離れたホームにいる友だちめがけて、
シャドーピッチングのように
空気のボールを投げている。

北小岩 「日本人は、ひと時も無駄にしないほど、
 スポーツが大好きな国民なので
 ございましょうか。
 むっ、あの動きは?
 どんなスポーツなのか、見当もつきません」
小林 「よ〜く見てみい。
 あれはスポーツやない。
 お前が最も得意とするものや」

北小岩 「あっ、あれはオナ・・・」
小林 「公衆の面前や。
 みなまで言うな。
 お前のような大ベテランと違って、
 まだ覚えたてほやほやから、
 練習が必要なんやろ」

男子中学生が右手の指で輪っかをつくり、
何度も何度も上下させているのだ。
諸説あるが、その行為は100mを全力疾走した運動量に
匹敵するともいわれている。
ある意味スポーツというべきか。

北小岩 「6番ホームと9番ホームでは、
 腰を前後にカクカク動かしたり、
 グラインドさせている男がおります」
小林 「本番に向けての練習やな」


されど、不埒な男たちは
あまりに生々しい動きを長時間続けすぎた。
そのため女性から駅員に通報され、
退場をよぎなくされた。後に現れた、
駅弁売りのケースを持っているかの体勢で、
ヒンズースクワット気味に動き
両腕を上下させていた輩も、
同様に退場となった。

ホームは、男たちにとっての、
スポーツの練習場となっている。
しかし、度を超した練習は危険であるし、迷惑でもある。
ぜひ、節度を持っていただきたい。
なお、二人が鎌倉の大仏様のもとまで
たどり着けたかどうかは、わかりません。

小林秀雄さんへの激励や感想などは、
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2009-11- 29-SUN

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