KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百弐拾八・・・実用

「あっ、レッサーパンダのようなお顔をした、
 かわいいワンちゃんがいらっしゃいます」

「おっ、こちらに向かってくるな」

破れかけた服を何枚も重ね着し、
運動不足解消のために町をぶらつく先生と弟子。
かわいいもの好きの二人が目にした犬は、
季節よりも一足早いタンクトップで
カラダの線を強調した女性に、リードを引かれていた。

小林 「北小岩のところに行くのかと思ったら、
 背中を弓なりにし、ふんばりだしたわ。
 お前のことを、便所だと思ったんやな」

先生の方がよっぽど便所らしいと思うのだが。

北小岩 「飼い主の方、
 変わったネックレスを
 していらっしゃいますね」
小林 「ほんとうや」

土佐犬の首輪を思わせる太いネックレスに、
トイレットペーパーを通しているのだ。
金具も装備され、カットできるようになっている。
女性は首に位置するペーパーをからからと引き出し、
糞を包むと、素早くビニール袋に入れた。

北小岩 「こんにちは。
 突然で大変失礼と存じますが、
 わたくしそのようなネックレスを見るのは
 初めてでございます」
ネックレス
女性
「ああ、これね。
 これからは、今までみたいな好景気は
 なかなか望めないじゃない。
 だから、
 ネックレスも装飾だけじゃなくて、
 実用を兼ねなければダメだと思うのよ。
 女の子の間じゃ、
 それが常識になりつつあるわ」
北小岩 「そうでございましたか。
 まったく想像もしたことが
 ございませんでした。
 貴重な情報を、
 ありがとうございました」

小林 「う〜む、
 時代の変わり目を感じるな」

再び二人が呆けた顔で歩き始めると、
宅配便屋さんがハイツ『股ぐら』の
一番手前のドアをたたいていた。

宅配
にいさん
「こんにちは。宅配便です!」

ガチャ。

ハイヒール
女性
「ちょうど今でかけようとして、
 ハイヒールをはいたところだったのよ」
宅配
にいさん
「そうですか。
 ちょうどよかったです。
 ここに受け取りのサインを
 いただけますか」
ハイヒール
女性
「ちょっと待って」

女性は用紙を手に取り下に置くと、
ヒールの先に朱肉をつけ紙を踏んづけた。

宅配
にいさん
「何をなさるんですか!」
ハイヒール
女性
「何って?
 印鑑を押しているに決まってるじゃない。
 このハイヒールの先端は、
 印鑑になっているのよ」

押印された紙を手にしたにいさんは。

宅配
にいさん
「あっ、ほんとうだ!」

ハイヒール
女性
「これからは、ヒールといえども
 カッコだけじゃダメなの。
 実用の時代よ。
 特に私はサドっけがあるから、
 踏みつけて押せるのが気持ちいいのよ」
北小岩 「確かに女性の世界では、
 実用が当たり前になって
 きているようでございますね」

今までは装飾としてが主だったネックレスが、
必要な時にすぐ使える
トイレットペーパーホルダーの要素を兼ね、
ハイヒールが判子としての機能を
兼ねるようになっている。
これから様々なものに、その傾向は広がると思われるが、
そうではない気もする。

小林秀雄さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「小林秀雄さんへ」と書いて
postman@1101.comに送ってください。

2009-02-15-SUN

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