KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百弐拾参・・・不況

「俺がどう動くかで、世界経済が変わってくるな」

隣人が恵んでくれた石焼き芋。
包んであったくしゃくしゃの経済新聞を目で追いながら、
すかしっ屁ほどの価値もない法螺を吹いているのは
小林先生であった。

北小岩 「お芋はほかほかですが、
 世界のエコノミーは冷え冷えですね」
小林 「そうやな。
 我々もばっこんと、
 防衛策を講じねばあかんやろな」

策などといっても、
小林先生らはもともと収入は雀の尿ほどもなく、
切り詰めるものはほとんどない。

小林 「これから先2年間は、
 古エロ本を買わんようにするわ。
 同志を集めて、交換すればええ。
 そういう意味では、
 エロ本もスワップの時代に入ったんやな」

世界がどうなろうとも、この先生に意味などはない。

北小岩 「そうでございますね。
 わたくしもよっちゃんイカを食す回数を、
 年1回にいたします。
 それからお茶は茶柱を急須に1本入れて、
 ぐるぐる回しながら淹れたいと思います」

もともとスケールが小さい男らであるが、
やることがさらにミクロになる。

小林 「でもなあ、
 そういうことでもないような気がするな。
 そや!
 韋駄天僧に聞いてみるか」

韋駄天僧といえば町の精神的支柱。
心技体すべてに優れているが、
特にその俊足は暴走ボブスレーともいわれている。

小林 「ここいらへんで待っておればええやろ」
北小岩 「そうでございますね」

キャーッ!

100メートルほど手前で、ギャルの悲鳴があがった。
韋駄天僧が猛スピードで駆け抜けたため、
一陣の風が季節はずれのミニスカートをまくり上げたのだ。

ウハーッ!ウハーッ!!

町の男衆はそんな僥倖を、何よりの楽しみにしていた。
「獅子舞柄のパンティーだった!」
と鼻の下を伸ばしきった。
 
韋駄天僧はずばぬけた叡智を持った名士なのであるが、
足が速すぎるために
民衆が知恵をさずけてもらおうと思っても、
一瞬で通り過ぎてしまう。
なお、僧は局部に糸瓜をベースにして作った
ハブ型のペニスケースをつけている。

北小岩 「こちらに向かってまいります」
小林 「油断するんやないで」

弟子はぱっくり口をあけた
メスマングースの剥製を掲げると、進路を塞いだ。

韋駄天僧 「うお〜〜〜。
 キキ〜〜〜!」

僧のハブがメスマングースの口におさまり、
急ブレーキがかかった。

韋駄天僧 「危ないではないか!
 もうすこしでペニスケースが
 折れるところだったわ。
 もしぽっきんとなってみろ。
 ケースの中にはこっちんこっちんに
 息子がつまっとるから、
 使い物にならなくなってしまうわ!」

北小岩 「申し訳ございません!
 実はお坊様にひとつ質問がございまして」
韋駄天僧 「なんだ?」
北小岩 「現在日本は、いや世界は、
 粗塩で揉まれた陰毛のように、
 ちりへにゃになってしまっております。
 この大不況でわたくしたちも、
 古エロ本やよっちゃんイカの購入を
 控えることにしました。
 しかし、それだけでは」
韋駄天僧 「そうだな。
 こういう時に出費を減らすのは
 致し方ない。
 だが、それだけではダメだ。
 減らした分だけ、愛を増やすんだ。
 『出費を減らして、愛を増やす』
 これじゃ!
 だが、それがなかなかできん。
 収入が減り、支出も減ると、
 愛まで大幅に減ってしまう。
 人間、よいときには何の問題もない。
 だがひとたび状況が悪くなると、
 それだけのことで
 仲がギスギスしてしまい、
 離婚にまで至ることもあるんだな。
 悲しいではないのか。
 そんな時こそ心から妻を愛し、
 夫を愛し、子を愛し、親を愛し、
 恋人を愛し、友を愛し、隣人を愛し、
 にわか雨を愛し、犬を愛し、
 カマドウマを愛し、蟻の門渡りを愛し、
 ケツの穴を愛し、チンチンを愛し・・・。
 とにかく愛を増やすことじゃ!」

言い終えるやいなや、人間離れした勢いで走り出した。
そこには先ほどのギャルがいて、
再びスカートがめくれた。

小林 「そうや、僧の言う通りや!
 森羅万象、
 様々なものを愛さにゃあかん。
 俺はまず、
 あの娘のパンティーを愛するで。
 お嬢さん、その獅子舞の」
ギャル 「何見てんのよ!
 このドスケベ野郎!!」

ギャルの放った電光石火の回し蹴りが、
先生の鼻をとらえた。

小林 「うお〜、目の前に火花が〜〜〜。
 僕は回し蹴りを愛し、
 火花を愛し」

ボクッ!!

蹴りの第二弾が後頭部を襲った。
倒れこんだ場所に、うん悪く巨大なウンが落ちていた。

小林 「犬の糞を愛し・・・」

そのまま悶絶してしまった小林先生。
そんなものは捨てておけばよい。
だが、収入が減り、支出を減らしたら、
その分愛を増やすこと。
それは実践せねばならないだろう。
僧の教えを胸に、
朗らかな心でサバイバルしていきたいものである。

小林秀雄さんへの激励や感想などは、
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2009-01-09-FRI

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