KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百弐拾・・・折り返し

「ぷっ!」

「げぎょっ!」

道行く人々が失笑しながら歩いていく。
その目線の先には、二人の阿呆がいた。

北小岩 「寒さが身にしみますねえ」
小林 「俺なんか、
 下腹部の体積が
 人よりずば抜けて大きいもんやから、
 冷え込みは人一倍や」

愚にもつかぬ発言は、
そこいらのゴミ箱に捨てておくとして、
人々が苦い汁を飲まされたような
複雑な笑いを浮かべたのは、
二人が耳に軍手をつけていたからである。

北小岩 「先生もわたくしも、
 非常に弱いですからね」

師弟の耳はまるで童子のようで、
気温が3度を下回ると
すぐに霜焼けになってしまうのである。
しかし、イヤーウォーマーなどという
こじゃれたものを持っているはずも無く、
泥で汚れた軍手をはめているのだ。

小林 「いつもなら
 1時間半かけて歩いていくところやが、
 今日はバスに乗っていこか」


そんなに寒いのなら、
エロ古本市になど行かなければよいのに。
ともかく、寒風を避けながら、
後ろ向きに歩いて停車場に到着した。
そこは町のどん詰まりで、
人々から折り返しと呼ばれていた。

小林 「相変わらずバスが方向転換しとるな」
北小岩 「ここに来るのは数年ぶりですが、
 以前は人がまばらでした。
 なのになぜこのように
 大勢いるのでございましょうか」
小林 「多いだけやないで。
 目ん玉を金玉のように、
 キラキラ輝かせて凝視してみい」
北小岩 「はっ、
 やってきた人が
 あそこで折り返していきます!」

「そうじゃ。ここは折り返しの名所になっておるんじゃ」

北小岩 「あなたは?」
折り返し
じいさん
「わしはな、
 ここで折り返す者たちの
 幸せを祈っている、
 自称『折り返しじいさん』じゃ」
北小岩 「そうなのですか。
 戻っていったあの方は、
 かなり真剣な面持ちでしたが」
折り返し
じいさん
「彼は今がポコチンの折り返し点だと
 決めたんじゃな」
北小岩 「と申しますと?」
折り返し
じいさん
「仮にポコチンを使える年月を、
 己で50年と定めるんじゃ。
 彼は今がその半分だと決意した」
小林 「後25年で
 オスとしてのポコチン寿命が
 尽きるわけやな」
折り返し
じいさん
「そうじゃ。
 そんな事をして何になると
 思うかもしれないが、
 そう決めたやつは一様に
 清々しい表情をしておる。
 もちろん、ポコチンだけじゃない。
 人生そのもの、サラリーマン生活、
 結婚生活、片想い、趣味、社長在任、
 スポーツ現役、浪人生活など、
 様々な思いを胸に、
 ここにやって来るんじゃ」
北小岩 「今犬が来ましたが」
折り返し
じいさん
「人間だけではなく、
 犬や猫、なめくじやカマドウマ、
 いろんな生き物にとっても同じことじゃ。
 この間など、
 バキュームカーのホースが来ておったな」
北小岩 「生きているのでございますか?」
折り返し
じいさん
「生き物とは言えないが、
 吸い取っている時にはにょろにょろ動く」

小林 「おっ、
 小股が深く切れまくったいい女が来るで。
 彼女のHな所業期間も、
 あと半分かいな。
 うはうは」
折り返し
じいさん
「そうじゃないじゃろ。
 きっと手前の角で曲がるな。
 彼女はお肌の曲がり角なんじゃよ」

とある町の折り返し点。
日夜、決意を固めた者たちが、訪れては去っていく。
その顔はまるでつき物が落ちたようだという。
あなたもこの冬、折り返してみてはいかがですか。

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2008-12-21-SUN

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