KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の弐百拾・・・ひとつ進む

北小岩 「そうなのでございますか」

電気屋さんでテレビのディスプレイを見学していた
弟子の北小岩くんが、店員さんと話しこんでいる。

店員 「2011年から地デジになりますので、
 あなたのテレビなら、
 買い替えが賢明でしょうね。
 時代はひとつ先へ進んでいるのですよ」

北小岩くん愛用のテレビジョンは、
ガチャガチャと手で回して
チャンネルをかえるタイプのものである。
時代がひとつというよりも、
三つも四つも遅れているだろう。

北小岩 「一生使い続けようと
 思っておりましたが、
 油断していたようでございますね」
小林 「ひとつ進んだのはそれだけやないで」
北小岩 「あっ、先生!」

いつの間にか小林先生と謎の男が
弟子の後ろに立っていた。

北小岩 「僭越ながら、
 おっしゃられている意味が
 よくわかりません」
小林 「こちらにおられるのは、
 ひとつ進んだことに詳しい御方や。
 よ〜く伺っとけ」
ひとつ
進んだことに
詳しい人
「例えばあそこ。
 入口の外にいる女性の
 下半身のあたりをご覧ください」
北小岩 「え〜と、
 ハチが飛んでおります。
 あっ、スカートの中に入っていく!」
ひとつ
進んだことに
詳しい人
「あれはハチがひとつ進み、
 キュウになったものです。
 ハチにくらべると
 考えられないほどスケベで、
 常に女性の蜜を狙っています」

小林 「そうなんや。
 今世の中では、
 科学や技術だけではなく、
 様々なものがひとつ進んでおるんや」

先生が言い終えるかいなかのタイミングで、
路地から虚無僧が尺八を吹きながら登場した。

フ―フゥフゥ―

虚無僧 「ゴッ、ゴホゴホ」
北小岩 「どうしたのでございましょうか」
ひとつ
進んだことに
詳しい人
「尺八が、尺九になったのですね。
 尺八の時は気持ちのよいものでしたが、
 尺九は吹こうとすると、
 ノドの奥に入り込んで
 突いてしまうのですね。
 ディープ尺八といったところでしょうか」

通りの向こうのサンパツ屋では、
散髪されている中年男が放心状態になっているようだ。

ひとつ
進んだことに
詳しい人
「サンパツまでは
 決死の覚悟でこなせても、
 ヨンハツは無理だったのでしょう」
北小岩 「話が大幅に
 それているような・・・」

小林 「あの家から飛び出してきて
 倒れたヤツを見てみい。
 フンと尿を同時に漏らしとるやろ。
 きっとイチジク浣腸がニジク浣腸となり、
 効能が二倍になってしまったんやな。
 俺が注目しとるのは、
 オナゴや。
 ひとつ進めばオナロク。
 なっ、いやらしい響きがするやろ。
 今まで体験したことのないほど
 ええ事が起こりそうな予感や」
北小岩 「ひとつ進むということが、
 いいことなのか忌むべきことなのか、
 よくわからなくなってまいりました」

技術や物事が進んでいくこと。
人はそれを進歩と呼ぶ。
冷静に目を凝らしてみれば、森羅万象が
すでにひとつ先へと進んでいるのだ。
上記には登場していないが、
ご苦労さん(5・9・6・3)という言葉なども、
6・10・7・4になっている可能性は高い。
いったいどのようなものになったのか、想像もつかない。

小林秀雄さんへの激励や感想などは、
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2008-10-12-SUN

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