KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の百八拾参・・・巻き戻し


小林 「どうした。お前にしては珍しく、
 目に清純度の高い涙を
 浮かべとるようやが」
北小岩 「透明な美で
 安らがせてくださった桜が、
 瞬時に散りゆく姿を見ていると、
 それだけでわたくしはもう」
小林 「桜のはかなさは、
 また特別やからな。
 しゃあない。
 花びら追悼の旅に出るか」

二人は花が散り寂しそうに佇む桜を見つけるたび
お礼を言いながら、三日三晩歩き続けた。

小林 「ふう。ここはどこの村やろか」
北小岩 「まったく想像もつきません。
 村人に聞いてまいりましょう」

不肖の弟子は、丈の高い草むらから
顔をのぞかせている男の方に歩いていった。

北小岩 「もし。
 草刈りの最中とは思いますが。
 はっ、申し訳ございません!!」

村人は草を刈っているのではなく、
野糞をしているのだった。

スポッ!

村人 「うほう!」
北小岩 「うぎゃおう〜〜〜!」

北小岩くんは叫び声をあげた後、
驚愕のあまりアゴがはずれてしまった。

小林 「どうした!鎌で襲われたんか!!」

弟子を心配した先生が
金剛力士像の形相で駆けつけ、
はずれたアゴをはめてあげた。

北小岩 「襲われたのではございません。
 そこの方は確かに大便を
 し終えておりました。
 しかし、突然大便が
  肛門の中に戻っていったのです!」


その時だった。

「すぽぽぽぽ〜〜〜ん!」

男の口から、ご飯、たくわん、
アジの干物などが次々飛び出してきた。
二人は腰を抜かし、その場にへたり込んだ。

「見られてしまったようじゃな」

1メートルはあろうかという白いヒゲを、
頭の上で蝶結びしている男が現れた。
おそらく村の長老であろう。

北小岩 「男性のお尻に大便が吸い込まれ、
 口から食べ物が出てまいりました。
 どういうことでございましょうか」
おそらく
長老
「ここ数年のことなんじゃが、
 村の空間が部分的に
 歪んでしまったようなのじゃ。
 少々の病にかかったものが、
 その歪んだ空間に入り込むと、
 時間が巻き戻しされてしまうんじゃ」
小林 「なるほど。
 大便が過去に向かう。
 つまりアスホールに入り、
 体内で消化される逆の過程をたどり、
 しまいに食ったもんが元の形に戻り
 口から出てくるというわけやな」
北小岩 「恐ろしいことでございます」
おそらく
長老
「それほど恐ろしいというわけでも
 ないんじゃ。
 食べ物に戻っていく段階は、
 体の中で物がつくられていく
 快感があり、
 口から飛び出すときにそれは
 最高潮に達するらしいんじゃな」


散りゆく桜のはかなさを胸に旅に出た二人。
時間が逆戻りし、
地面に重なった花びらが枝に帰っていくのなら
美しくもあろう。
だがこの村のケースはいかがなものであろうか。
簡潔に言えば、どうでもいいことなのであるが。

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2008-04-06-SUN

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