KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を
一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の百七拾六・・・離


「小林さん、書留です」

「ありがとさん」

先生宅に珍しく書留郵便が届いた。

小林 「山岡からか。
 式の招待状を、
 なぜわざわざ書留にするんか。
 それにヤツはとうの昔に
 結婚しとったはずやが、
 どういうこっちゃ。むっ!」
封書の裏に、今にも泣き出しそうな文字で、
離婚式ご招待と印されていたのだ。
小林 「なるほど。
 あまりうまくいっていないとは
 聞いとったが、
 そういうことか」
まったく気乗りしなかったのだが、
当日、友人のために会場である玉割会館を訪れた。
結婚式の場合、白のテーブルアレンジが多いが、
ここのテーブルは腐ったような黄土色に装飾されている。
シャンデリアの電飾は一瞬キャロルのようだが、
よく見るとイチモツの形をし、点いたり消えたりしている。
式が始まった。
山岡 「今日はお忙しい中、
 私たちの離婚式にお越しいただき
 ありがとうございました」
山岡妻 「18年間、何とかつくしてまいりましたが、
 夫の浮気、及び私への罵詈雑言は
 止むことがなく、
 今日の悪しき日を
 迎えることとなりました」
山岡 「僕たちはこの式を持ちまして、
 二人の関係、これまでの生活、
 思い出いっさいを水に流し、
 それぞれの道を歩んでいこうと思います。
 では早速、式にうつらせていただきます」
なぜか壇上には自転車が置かれている。
奥さんはゆっくりまたがると、
一心不乱にこぎだした。
自転車の発電機からは線がのび、
夫の玉金に電極が据え付けられている。

山岡妻 「よくも人のことを、
 ブタだのなんだの侮辱したわね!」
奥さんの速度がだんだんと上がっていく。
山岡妻 「何度も何度も浮気してくれたわね。
 私は痩せてキレイになって、
 あんたなんかとは違う素敵な人と、
 新しい恋をするのよ! くらえ!!」
奥さんの体のどこにそんなエネルギーがあるのだろう。
まるでスパートをかける競輪選手のようだ。
山岡 「わっ、悪かった!!」
山岡妻 「もう遅い!!」
ボムッ!

何かが破裂する音がした。
玉金のあたりから白い煙が出ている。
夫は失神したようだ。
場内
放送
「只今より、30分の休憩をいただきます」
小林 「離婚式は初めてやが、
 鬼気せまるものがあるもんですな」
列席者 「しかし、衆目の中でここまですれば、
 お互い未練もなくなるかもしれませんな」
再び幕が上がった。
家紋のかわりにドクロマークの入った紋付を着る夫と、
黒装束に身をかためた妻。
お尻の辺りに穴が空き、そこから太い紐が出ている。
場内
放送
「二人はお互いに浣腸を打ち合い、
 穴をコルクでふさいでおります。
 それではこれより、
 最後の共同作業に
 うつらせていただきます」
紐は途中で一本になっている。
目の前の滑車からのびた紐を二人でひくと、
それぞれのコルクが外れた。
二人はトイレに駆け込んだ。

場内
放送
「ご両人は、それぞれの思いと、
 もよおしてきたものを水に流しております。
 この後離婚届に判を押し、
 離婚式を終了させていただきます」

列席者は拍手することもなく、
ただ呆然と立ち尽くしている。
わだかまりを残さず
きれいさっぱり別れるための離婚式。
これから増えるかどうかは知りません。

小林秀雄さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「小林秀雄さんへ」と書いて
postman@1101.comに送ってください。

2008-02-17-SUN

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