KOBAYASHI
小林秀雄、あはれといふこと。

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を
一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の百七拾参・・・カレンダー


北小岩 「まだまだお正月と思っていたら、
 1月もあともう少し。
 時のたつのは早いものでございます」
市井の人よりゆっくり時間が流れて行く
不肖の弟子の生活。
大晦日にご近所さんから
大量にいただいたおもちの青かびを削りながら、
ひとりごちる。
いまだに毎日三食あまったおもちを
七輪で焼いて食しているのだが、
なくなる気配もない。
北小岩 「特筆することのない1月でありました」
一日一日を噛み締めるように、
過ぎ去りしカレンダーの日付を指でたどる。
北小岩 「むっ?」
言い知れぬ違和感が目玉の表面に残り、
思わず声をあげた。
北小岩 「大変でございます。
 今年のカレンダーは
 1月が32日までございます!」
指先に余分な力を入れつつ、
他の月をチェックしてみる。
北小岩 「今年は閏年。
 それはいいとしても、
 2月は30日まで‥‥」
例年よりも1日多いのだ。
北小岩 「このカレンダーは、
 いつの間にか
 郵便受けに投函されていたもの。
 これは先生にお知らせせねばなりません」
トイレから、
踏ん張りすぎて上気した顔の先生が出てくると、
眼前にカレンダーを差し出した。
小林 「噂には聞いとったが、ついに来たか」
北小岩 「ご存知な現象なのですか?」
小林 「まあな。だが経験したことはない。
 どんなもんか。
 ここはいっちょ、
 悪い翁といい翁に聞いてみるか」
北小岩くんが黒電話のダイヤルを、
ジーコジーコした。
北小岩 「もしもし。悪い翁さんでございますか?
 実はわたくしどもの家のカレンダーが、
 1月32日まであるのですが」
悪い翁 「オレんちにも69年ほど前に、
 そのカレンダーは届いたぞ。
 32日は世にも恐ろしい日だった。
 あまりに寒かったので
 金玉をあたためようと
 火鉢にあてていたら、
 火がはぜて陰毛に燃え移ったんだ。
 年中、油のついた手で
 ちんちんのまわりを掻いていたから、
 陰毛が燃えやすい状態に
 なっとったんだな。
 大切なところが、
 焚火の中の焼きイモ状態に
 なってしまった。
 おまけに火傷に薬と間違えて
 唐辛子を塗ってしまい、
 あまりの痛さに
 ふるちんで池に飛び込んだ。
 イツモツは、
 数年使い物にならなくなったわな」
北小岩 「そうでしたか。
 とても参考になります。
 ありがとうございました。
 (北小岩くんの心の声)ははあ。
 かちかち山の狸みたいでございますね。
 きっと悪いことばかりしていると、
 32日にバチが当るのでしょう」
次にいい翁に電話した。
いい翁 「32日ですか。うほほほほう。
 玉虫のように輝かしい思い出しか
 ありませんのう。
 その日は大雨が降った後に、
 からっと晴れたんじゃな。
 大きな水たまりができて、
 着物を着た若い女性が二人、
 通れなくてこまっとったんじゃよ。
 だからな、私の着物を脱いで
 水たまりに敷いたんじゃが、
 それだけじゃ足りなくてな。
 下帯もほどいて
 彼女たちはやっと渡れたんじゃ。
 外はかなりしばれていたんで、
 私がくしゃみをすると、
 女性たち二人が申し訳ないので
 あたためてくれると言ってな。
 私の家で肉布団になってくれたんじゃ。
 ほどよくあたたまったところで。
 うほほほほ」
北小岩 「なるほど。うらやましいお話ですね。
 (北小岩くんの心の声)
 いい翁さんのように
 毎日善行を重ねていれば、
 32日にはこんなにウハウハなことが
 あるのでございますね」
先生に話すと、一瞬にやけた顔が
すぐに冴えない表情に変わってしまった。
小林 「よくよく考えると、
 俺は今まであまり善行をした記憶がない。
 ええ予感はせんな。
 大急ぎで急所カップを
 取り寄せといた方がよさそうや」



珍しく謙虚な小林先生。
さて、皆様のカレンダーはいかがでしょうか。
もし1日多いようでしたら、いい思いができるよう、
ささやかながらお祈り申し上げます。

小林秀雄さんへの激励や感想などは、
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postman@1101.comに送ってください。

2008-01-27-SUN

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