小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を
一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の百六拾八・・・矯正


小林 「だいぶ涼しくなってきたな。
 散歩にはもってこいや」
先生と愛弟子は、
鼻緒の切れかかった下駄を引っ張り出し、
足に任せて町内を歩き回った。
小林 「おっ、あの看板はなんや!
 ほんまかいな。
 だが俺も最近視力が落ちて字がかすむ。
 いまいち自信がない。
 ちょっとお前、読んでみれくれへんか」
北小岩 「はい。え〜と。んっ!
 『おめこ券大バーゲン』と
 書かれております!」
小林 「やはりそうか!
 全力疾走して買い占めてくるんや!!」
北小岩 「かしこまりました!」
先生が目をギラギラさせて近づくと、
弟子の北小岩くんが
肩を落とし師の到着を待っていた。
北小岩 「わたくしの読み間違いでした。
 実は小生も
 このところエロ本を凝視しすぎ、
 視力が下降線をたどっております。
 『おめこ券』に
 淡い期待を抱いてしまいましたが、
 『おこめ券』でございました」
あまりにべたな読み間違いをしている二人。
師弟のアホさは横に置いておくにしても、
かなり度が進んでいるのは確かなようである。
小林 「目は大事にせんとな。
 歯、目、マラという
 古代よりの言い伝えもある。
 目で食い止めておかんと、
 その先が寂しいことになる。
 視力の矯正に通う他打つ手なしやろな」


先生と弟子はその足で、町外れにある
視力矯正クリニック『羊の目』に駆け込んだ。
北小岩 「わたくしたちこのところ視力が落ちて、
 お先真っ暗な状態なのです。
 お医者様のところで、
 矯正することはできますでしょうか?」
羊の
目医者
「お任せください。
 うちは手術などはいっさい行なわず、
 自然に、そして
 ヒューマ二ティあふるる方法で
 視力を上げてご覧に見せます」
北小岩 「自然ということは、
 夜に星を眺めたりするのですか」
羊の
目医者
「いえ、それでは
 なかなか能率があがりません。
 人にはもっと見たいものがあるはずです」
北小岩 「と申しますと?」
羊の
目医者
「うちでは遠くの星を見るかわりに、
 遠くいる裸の美女を毎日見続けるのです」
北小岩 「なんと!」
羊の
目医者
「まず近めにいる女性から始めます。
 近くは露出度が低く、
 離れて行くにつれて過激になり、
 一番遠くはもちろんオールヌードです。
 女性のレベルも上がっていきます。
 近くの女性は三等性、それから二等性、
 一番離れて一番輝いている
 ヌードの美女は、
 一等性と呼ばれています」
小林 「なるほどな。
 星だと飽きてしまうし、
 雨の日には見ることができない。
 その点エロには飽きも雨もない」
羊の
目医者
「毎日違う美女を配置しますので、
 新鮮な気持ちで矯正できます。
 かなりの上玉をご用意してますよ」
小林 「なあ北小岩、ここに決めんか」
北小岩 「のぞむところでございます!」

怪しげな話に、また飛びついてしまった二人。
きっと法外な治療費を請求され、
目ん玉が飛び出てしまうことだろう。
だが、誰も同情しない。

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2007-10-14-SUN
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