小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を
一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。



其の百六拾参・・・撤去


「先生、町の人々の噂をご存知ですか?」

「いや、知らんが」

北小岩くんは家の前の道に打ち水したり、
公園のゴミ拾いをして
町のおばさん方の井戸端会議に
列席させられたりしているので、
大量の噂が耳に入ってくるのだ。

北小岩 「町はずれの空き地の地下に、
 何かが造られているようなのです」
小林 「う〜む、それは聞き捨てならんな」
腕を組んでカッコをつける先生であるが、
顔がにやけている。
彼は独特の嗅覚で、
地下にエロの匂いを嗅いだのだろう。
小林 「行ってみないわけにはいかないやろな」
歩いて10分ほどである。
空き地の一隅に、土が掘られた形跡がある。
小林 「俺の目は誤魔化せん。ここや!」
先生が土を除けると、
タテ1.5メートル、横1メートルほどの
鉄板が顔を出した。
二人で持ち上げると、地下に続く階段が現れた。
北小岩くんを先頭にして、下りてゆく。
その時、前方の暗闇から若々しい声がした。
謎の
青年
「きちゃだめですよ」
上はスーツ、下は白いブリーフ。
頭を七三に分けた謎の青年がスイッチを入れると、
巨大な地下室が浮かび上がった。
小林 「何や、これは!」
北小岩 「どこかで見たような像が
 たくさんございます!!」
謎の
青年
「ここは世界中の広場などに
 陳列されていて、
 事情に合わなくなったため
 撤去された物の保管室なのです」
北小岩 「そうなのですか。
 しかし、わたくしたちが
 よく目にする像とは、
 いささか異なる気がいたします。
 あそこの像は、
 小便小僧さんに似ておりますが」
謎の
青年
「もとは小便小僧だったのですが、
 成長してしまい‥‥」
小林 「なるほどな。
 小さいうちは愛敬があるが、
 あの体勢で成長していくとまずいわな」
謎の
青年
「そうなのです。
 小便小僧が思春期を迎え、
 そこをいじくるクセがついているため、
 小便小僧ならぬ『射精小僧』に
 なってしまったのです」
北小岩 「なんと!」
謎の
青年
「地元の人や観光客からも
 愛されていたのですが、
 そうなってしまっては
 とても名物にはできません。
 撤去されてここに
 しまわれたというわけです。
 あそこで寝ている像は、
 『夢精小僧』といいます」
北小岩 「ううう。
 あの岩の陰でしゃがんでいる
 おじさんの像は、何でございますか?」
謎の
青年
「『大便親父』ですね。
 隣の市で小便小僧が
 人気者になったのをみて、
 ライバル心を燃やして
 我が市にもと創ってはみたものの、
 コンセプトを間違えてしまったのです」
小林 「ブリュッセルの小便小僧自体、
 世界三大がっかりと呼ばれることも
 あるそうやから、
 あの像ではなおさらやな。
 ところであのでっかいヤツは、
 シンガポールのマーライオンやないか」
北小岩 「でも、ちょっと様子が変です。
 口から出しているものが
 水ではございません」
謎の
青年
「そうなんですよ。
 あれは酔っ払っては吐いてしまう
 『ゲーライオン』なんです」
小林 「しょうもないもんばっかりあるな。
 あそこに見える『招き猫』は、
 どうせあげている左手のわきから
 腋臭でも漂わせてしまっているんやろ」
謎の
青年
「よくお解かりになりましたね。
 まさしく腋臭がきつすぎて
 何もいいことがない
 『招かない猫』なんです」
小林 「名前も芸がないわな。
 見たところ、
 ここにエロ関係のものはなさそうやが」
謎の
青年
「一体『エロのビーナス』と
 呼ばれる像がありますが」
小林 「興味ないわ。北小岩、帰るぞ」
世界中には、
いったい何体の像が飾られていることだろう。
だが、実際にはこの保管場所にあるような、
撤去されて当然というしろものが
かなりの数存在する。
人間とは好むと好まざるとにかかわらず、
ついお茶目なものを創ってしまう。
それがまたいいところなのかもしれませんね。

2007-05-15-TUE
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