小林秀雄のあはれといふこと

しみじみした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。


其の百参拾弐・・・川


リリリリーン、リリリリーン。

北小岩 「はい、小林家です。
 えっ?
 そっ、それは大変でございます。
 先生〜〜〜!!」
小林 「なんと!」
二人は全力疾走した。
視界は涙でぼやけている。
北小岩 「ここです!」
先生が無言でうなずく。
隣町にある小さな病院。
階段を駆け上がり、69号室に飛び込んだ。
小林 「大大師匠は!!」
医師 「あと1時間がヤマでしょう」
大大師匠というのは、
小林先生の師匠のまた師匠のそのまた師匠である。
名は股割好左ェ門(またわれすきざえもん)。
今年、108歳を迎える。
この世に生を受けると同時に、
産婆助手の若い女子(おなご)の秘所を
まさぐろうとしたという伝説を持つ助平人だ。
その後、睾丸の美少年として活躍。
年を経るごとに助平味にダシをきかせ、
今では女子衆に
何をしても笑ってすまされる域にまで達している。
小林先生も
いつかはこのような老助平人になりたいと思っている。
その愛すべき股割翁が、死の淵に立たされているのだ。
小林 「院長先生、お願いや。
 大大師匠ほど
 愛らしいエッチ人はおらんのや」
院長先生 「あらゆる手はつくしました」
小林 「いや、まだや。
 大大師匠の鼻の下が伸びとる。
 ここが勝負の分かれ目や。
 今、師は三途の川を渡ろうとしておる。
 向こう岸には、
 裸の女たちが手招きしとるはずや」
院長先生 「そうでしょうか?」
小林 「間違いないで。
 大大師匠の手を見てみい。
 震えながらも
 ゆっくり股間をまさぐっとる。
 彼岸には今まで師が愛した女性が
 勢ぞろいやな。
 蜜なる思い出に誘われているに
 違いない。
 危険や。
 向こう岸に渡らせたら一巻の終わり。
 それを阻止するためには、
 この世におれば
 もっと気持ちのええもんがあると
 分からせる以外にない。
 あんた方の出番やで」
先生があんた方と呼んだのは、
心配そうに覗き込んでいた
股割氏のガールフレンドたちである。
一様にパンツの見えそうな
ミニスカートをはいている。
股割氏は108歳になった今も、
若いガールフレンドたちを
いじくったりしているらしい。
小林先生が女の子に耳打ちする。
女の子は顔を赤らめたが、こくんとうなずいた。
小林 「院長先生、
 これからは来世のエロと現世のエロの
 真剣勝負や!」
女の子の一人が股割氏の手をとり、
服の上から胸を握らせた。
翁の目尻の皺が揺れる。
小林 「甘いな。
 あの世のエロをなめたらあかんで。
 思い出のエロは、
 ひたすらやさしく心地ええんや。
 ゆりかごみたいなエロや。
 それでは勝てん」
先生に促され、もう一人の女の子は
翁の手をスカートの中へ導いた。
小林 「ここから先は女の子たちだけにして、
 みなさんにも
 席をはずしていただきまひょ。
 僕はもちろん、
 陣頭指揮をとるため残りますが」


ガールフレンドたちは
全裸で肉布団となり、翁をあたためた。
自分の持てる技をみだらなまでに駆使し、
三途の川をさ迷っている大大師匠を
こちらにたぐり寄せる。
1時間が経過した頃。
股割 「うっ、う〜ん」
小林 「大大師匠!!」
股割 「ああ、おまえか。
 実は川の向こうに
 裸体の女子がぎょうさんおってな。
 も少しで渡りきるところやったが、
 途中でやわらかくて
 トロっとした感触がしてな。
 こっちの方が
 ウハウハナな思いができそうだから、
 途中で引き返してきたんじゃ」

先生は大大師匠の皺くちゃの手を握りしめ、
大粒の涙をこぼした。
読みは的中した。
粋な助平道を極めたご老人。
ずっと長生きして、
その下半身なる心意気を
日本の男たちに伝え続けてくださいね。

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2005-07-31-SUN

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