小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。


其の百拾参・・・心霊


「うっ、うわ〜〜〜!」
「どした!」
北小岩くんの悲鳴を聞いて、
小林先生が弟子の三畳間に駆けつけた。
「これです!」
真っ青な顔で震える北小岩くんの手に握られていたのは、
心霊写真であった。
ヨーロッパの古城で撮影されたもので、
紳士の肩上にうっすらと兵隊の顔が写っている。

小林 「なるほどな。
 俺も昔は心霊写真が死ぬほど怖かった。
 だが、ある研究家の話を聞いてから
 幽霊にも心労が多いことがわかり、
 妙に愛着が湧いてきたんや。
 以後冷静に眺められるようになった。
 お前ももう青年とはいえない年齢や。
 そろそろ心霊写真の恐怖から
 脱却せなあかんで」
先生は北小岩くんを連れ、
心霊研究家の霊男根抜男(れいだんこんぬきお)氏の
自宅を訪ねた。
霊男根 「ほほう。
 これは世界的に有名な心霊写真ですね。
 この幽霊の悲しげな表情。
 思わず抱きしめたくなります。
 私は霊界と通じていますから、
 彼らと話ができるのですが、
 いやはや向こうの世界も楽じゃない。
 例えばこの写真をご覧ください」
北小岩 「むっ!!!!!」
旅行中のスナップであろう。
両手でピースをつくり微笑んでいる可憐な女性。
こちらに向けられた左手の人差し指と中指の間から、
堂々と屹立したちんぽの白い影がのびている。
だが、右手のピースの指間には
しなびれてうつむいた短小ちんぽが
弱々しく写っているのだ。

霊男根 「これはまぎれもなく心霊写真です。
 見ての通り明暗がわかれています。
 女性がピースを出した瞬間に
 ご立派状態にさせた幽霊は、
 霊界で英雄となったのです。
 しかし、醜態をさらしてしまった
 もう一方は蔑まれ、
 完璧なインポになってしまいました。
 あの世で笑い者になったのみならず、
 この世でもさらし者です。
 女性は心霊写真を見て
 恐怖のあまり落としてしまったのですが、
 拾い上げた友だちが
 片方がなさけないちんぽの
 心霊であることに気づきました。
 友だちは女性に知らせ、
 二人は指差して冷笑したのです」
北小岩 「・・・・・・・」
現世の人々に様々な生業、役割があるように、
来世でもいろいろな役が割り振られているという。
写真の幽霊たちは
ピースの指の間からちんぽを出す役目だが、
中には紳士、淑女が写真を撮る時に
ちんぽを頭に載せて
ちょんまげを作らなければならない者もいる。
生真面目な幽霊は、
そんな自分のあり方に疑問を持ち悩んでしまうのだ。
霊男根 「これはエクトプラズムですが、
 幽霊の骨折りも大抵ではありません。
 人間の口から蒸気状のものが
 出ているように見せるのですが、
 この白いものは実は高温の屁なのです。
 あらかじめ熱湯をお尻の穴に入れておき、
 屁で湯気を外に押し出します。
 危険な行為ですので、
 お尻の穴に重度の火傷を負う者が
 後を絶ちません」
北小岩 「う〜む、幽霊さんも命がけなのですね」
霊男根 「そうなのです。
 ポルターガイスト係などもいますが、
 大変なんですよ。
 イスや電気スタンド、
 カップや人形などいろいろなものを投げたり、
 時には箪笥や家などの
 大物も揺らさなければなりません。
 幽霊はインパクトはありますが、
 いかんせん力がない。
 筋力トレーニングをつんでいますが、
 やっと動かした箪笥が自分の上に倒れてしまい、
 もともと死んでいるのに
 もう一度死ぬという
 わけのわからないこともおきかねません」
私たちは心霊写真や怪奇現象に触れた時、
ただ怖がるだけですむ。
しかし、幽霊たちは
このように過酷な現実を生きているのである。
もしあなたの写真に幽霊のちんぽが写っていて、
なおかつ超短小包茎でイカ臭そうであろうとも、
決して蔑むことのないよう
心がけていただきたいものである。

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2004-06-07-MON
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