小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。


其の百壱・・・スローライフ


「どないしたんや。
 今日は動きが一段とのろいようやが」

北小岩くんが庭のあはれ蚊に
お辞儀をしたまま静止している姿を見て、
小林先生がたまらず声をかけた。

北小岩 「実はわたくし、
 スローライフという生き方に
 感銘いたしました。
 ですから、もっと生活全般を
 スローにしていこうと
 心がけているのです。
 そのような視点で見ますと、
 庭のあはれ蚊さんには
 見習うべき点がとても多いのです」
小林 「そうか。
 お前は今でもすべてにおいて
 ゆっくりすぎると思うが、
 いっそのこと徹底するのも
 ええかもしれんな。
 俺の師匠の友人で、田舎にこもって
 本物のスローライフを
 実践している方がおる。
 いい機会だから、
 極意をうかがいに行こうか」
先生と北小岩くんは、各駅停車を乗り継ぎ
とある山のふもとに庵を結ぶ男を訪ねた。
小林 「ごぶさたしております。
 最後にお会いしてから、
 かれこれ10年になりますね。
 北小岩、こちらが達観者の
 遅久角男(おそくかくお)さんや」
北小岩 「始めまして。
 北小岩と申します。
 わたしく、生まれつき
 スローモーなこともあり、
 これからの人生一切欲をかかずに
 スローライフで行こうと思っております。
 遅久さんはスローライフを
 突き詰めていらっしゃる方と
 うかがっておりますが、
 どのような生活をされているのですか?」
遅久 「僕は下半身のスローライフを
 メインにしています。
 ちなみに小林くんと以前会った時から、
 一度しか発射していないんです」
北小岩 「と申しますと?」
小林 「つまりな、遅久はんは
 何年もかけて
 ゆっくりゆっく〜〜〜〜〜〜〜〜〜りと
 発射に至るスローオナニーの実践者なんや。
 何でも1回フィニッシュを迎えるために
 8年かけるそうや」
北小岩 「なんと!」
遅久 「『いじくり3年かき8年』を
 モットーにしています。
 ここを大きくするのに
 じっくり3年はかけますね。
 スロー勃起です。
 今は最新の発射から2年たってますから、
 あと1年でもっこりしてくるでしょう」
そういえば遅久氏は
先ほどからパンツの中に手を入れたままである。
3年間微かな刺激を与え続けるのである。
それから絶頂までさらに5年を費やすのだ。
話によるとエロ本も
1年で3ページしか進めないという。

北小岩 「恐れ入りました!
 でも、それだけの長い時間をかけていると
 退屈しませんか?」
遅久 「僕ぐらいの玄人になると、
 ただもてあそんでいるだけではなく、
 途中で俳句を詠んだりしています。
 一句いきましょうか」

氏は局部をいじる手を休めずに、
陰毛で作った筆でさらさらと書きあげた。

「如意棒や 奥よりかほる 栗の花」角男

(訳・親愛なるおちんちんさん。
 睾丸の奥の方から
 「地中のセミでさえ7年の辛抱なのに、
  なぜ私はそれより1年も長く
  耐え忍ばねばならないのですか」
 と栗の花の香りが漂い、
 私の心を締めつける夕暮れ時よ)
北小岩 「なんて風流な句なのでしょうか」
小林 「それだけやないで。
 遅久はんは
 如意棒のさらなる有効利用を考えとるんや」
遅久 「そうなんですよ。
 8年間イチモツを握り締めていると、
 そこが湿り気を帯びてきて、
 適度な温度が保たれるんです。
 ですからイチモツを原木として
 椎茸栽培を始めました」
小林 「陰部周辺を雑木林ととらえる発想やな。
 ちんちんでもよく育つ
 種菌の改良にもいそしんでおられる。
 北小岩もしばらく
 遅久はんのお宅にお邪魔になり、
 独自のスローライフを確立したらどうや」
遅久 「おお、それはよいですなあ」

巷間ではスローライフが流行している。
だが、この流れを一過性のものにしてはならない。
日本には遅久氏のように、
己の欲望をたしなめ気持ちよささえ
気の遠くなるようなスパンで味わっている聖人がいるのだ。
氏の生き方は、これからスローライフを志す者たちの
大きな道標となることであろう。


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2003-11-16-SUN

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