小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。


其の八拾壱・・・開国

「先生の机も随分黒光りしてまいりました。
 おや、この本は?」

小林先生の書斎を掃除していた弟子の北小岩くんが、
机の上で変色している書物を手にとりつぶやいた。

「どや、面白そうやろ」

今しがたまで厠でふんばりながら
詩吟の練習をしていた先生が、
満面の笑みを浮かべてそこにいた。

小林 「それはな、裏日本史研究家、
 裏筋舐太郎(うらすじなめたろう)氏の著書や。
 裏筋はんは通説となっている
 様々な日本の歴史について
 独自の視点で考察し、
 異議を唱えてきた。
 ちょうどええ。
 これから裏筋はんの家に
 筒状のこんにゃくを届けにいくところや。
 いっしょにいってみよか」
先生と北小岩くんは
チェーンの外れかけたおんぼろ自転車をきしませながら、
張形1丁目にある裏筋家を訪ねた。
呼び鈴を押すと裏筋氏が、
はまぐり形をしたアイスキャンディーを
舐めあげながら姿を見せた。
小林 「裏筋はん、
 その後裏筋の調子はいかがですか?」
裏筋 「毎日オイルを塗っているので、
 かなりすべりがよくなっています」
小林 「それはよかった。
 ところで俺の弟子が
 裏の日本史に興味を持ったようなんや。
 まずは裏筋はんの一番の功績といわれる
 日本の開国について教えてやってくれへんか」
裏筋 「ほほう。それでは講釈いたしましょう。
 1853年、アメリカの
 東インド艦隊指令長官であったペリーは、
 四艘の黒船を率いて浦賀にやって来ました。
 そこまでは厳然たる事実です。
 しかし、ペリーが来航した目的が
 誤って喧伝されてしまいました」
北小岩 「と申しますと?」
裏筋 「私の長年の研究によれば、
 ペリーは日本に開国を迫るために来たのではなく、
 ちんちんの大きさを自慢しに来たのです」
北小岩 「なんと!」
裏筋 「彼はアメリカきってのイチモツキングでした。
 ですが日本にはウタマロと呼ばれる巨根者が
 ごろごろしていると噂で聞き、
 ならば俺がそいつらとイチモツ勝負を行ない
 完膚なきまでにたたきのめし、
 自慢してやろうと思ったのですね」
北小岩 「そうだったのですか!
 存じませんでした。
 ところで、なぜわざわざ黒船で来たのですか?」
小林 「そりゃ、こういうわけや。
 白人のちんちんはとても白いやろ。
 そやから黒い船を背景に巨根を開チンし、
 白と黒とのコントラストで
 さらに猛々しく巨大に見せようと
 計算したんやな」
北小岩 「さすがに日本より数段手練に優る国の方ですね。
 膨張色を巧みに用い、
 己の価値を高める戦術に出ようとは!
 でも、それと開国はどう結びつくのですか?」
裏筋 「ペリーさんのナニは
 とてつもなく巨大だったのですが、
 白人の常としてそれほど硬度がなかったのです。
 彼は砲台の上にイチモツを置いて休みました。
 すると浦賀の人々は白い大砲と勘違いし、
 日本に向けて発射しようとしているという情報を
 幕府に伝えました。
 江戸中は蜂の巣をつついたような大騒ぎに・・・」
北小岩 「それからどうなりましたか?」
裏筋 「ペリーはみんなが騒いでいるのでうれしくなって、
 『マイコック!マイコック!』と
 ちんちんを空に向けながら甲板を走り回りました。
 幕府の要人たちは英語がわかりません。
 もちろん、スラングを知る者など皆無です。
 それで『マイコック』を
 『カイコク』のことだと誤って解釈しました。
 つまり大砲で脅しながら
 開国を迫っていると思い込み、
 あまりの恐ろしさに
 つい開国してしまったというわけです」
北小岩 「なるほど!」
小林 「さらにそれより500年以上前にも、
 ちんちんを自慢しに来た外国人はおったんやで」
裏筋 「そうですね。
 1274年の蒙古襲来です。
 元と高麗の連合軍が900余艘の船を連ねて
 博多湾沿岸に上陸しました。
 そこでイチモツを開チンしたのですが、
 思ったほどは大きくありませんでした。
 御家人たちは
 俺たちにも十分戦える大きさであると判断しました。
 とはいえ日本人よりは立派でしたので、
 大宰府の水城までは後退を余儀なくされましたが、
 日本のおちんちんの神様も
 これならばと思い
 神風を吹かせて追い返すことに成功したのです」
北小岩 「ふう、危ないところでした。
 もしも蒙古の方々のモノがさらに巨大だったら、
 日本の歴史も変わってしまったのですね」
小林 「そやろ。
 だからこれからは
 日本も海岸線にちんちんのでかいヤツを並べて、
 外国にナメられないようにしなければならんやろな」
裏筋 「どうせ舐められるのでしたら、
 金髪の美しい女性に舐められたいところですね」


小林・北小岩・裏筋
「あはははははは」

この後も三人は居酒屋へと場所を移し、
夜更けまで延々と日本史談議を続けた。
だが、あまりにくだらなすぎるので、
それをここに記すには及ばないであろう。

2003-02-20-THU

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