小林秀雄のあはれといふこと

しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。


其の六拾八・・・・大国


混迷を極める日本経済。
世界の資本は、
安価で豊富な労働力を持った市場へ流動している。
今後、日本が以前のように
驚異の経済大国を標榜することは至難であろう。

北小岩 「先生、このまま日本は
 沈没してしまうのでしょうか」
小林 「まあ、そんなことはないと思うが、
 ここらでひとつ進むべき道を
 明確にしておいた方がええやろうな。
 資源の乏しい日本が貿易立国として
 経済大国たらんとするのは宿命やが、
 今後はそれだけではあかんからな」
北小岩 「と申しますと?」
小林 「例えばブラジル人ならば、
 全国民が華麗にサンバを踊れる。
 イタリア男ならば、
 全員があいさつするように女性を口説ける。
 そんなイメージがあるわな」
北小岩 「限りなくおおざっぱに言えばそうですね」
小林 「とにかく陽性やろ。
 それに引き換え、
 日本人はシャイで面白みがないように
 思われとる。
 まず、国をあげてそこを変えていきたい」
北小岩 「確かにそうですね。
 日本人は印象が薄いです。
 それに何か起こると
 日本全体がすぐに
 重たい空気に覆われてしまいます。
 どうすればよいのでしょうか?」
小林 「うむ。それを突破するためには、
 経済大国を目指しとったらあかん。
 これからの日本が向かうべき方向は
 『マジック大国』や!」
北小岩 「なんと!」
小林 「つまり、日本の全国民が
 マジックできるようにするんや。
 そして、日本に来た外人には
 事あるごとにマジックをかまし、
 また外国に行ったら
 あらゆる場面で披露するんやな。
 それを10年も続けてみい。
 外人はこう考えるで。
 日本人はいつでも必ず
 マジックで楽しませてくれる、
 とっても陽気で愛すべき国民なんだとな」
北小岩 「いいですね!
 歓迎すべき国民性です!
 『マジック大国日本』。
 楽しそうな響きを持っています。
 そうと決まれば、私もマジックを
 修得したくなってまいりました!」
小林 「そうやろ。
 俺の知り合いに
 二人の違うタイプのマジシャンがいる。
 彼らのもとで、我々が先陣を切って
 マスターしようやないか!」

先生の知り合いというのは、
マジックのプロである『水性マジック師匠』と
『油性マジック師匠』である。
水性マジック師匠は、淡くほのぼのした芸風。
油性マジック師匠は、記憶にこびりついて
忘れたくても忘れられない芸風という。
さっそく二人は師匠のもとを訪れた。
北小岩 「こんにちは、水性マジック師匠。
 師匠は、海外ではどのような場面で
 マジックをなさるのですか?」
水性
マジック
「まず入国審査でパスポートを出すふりをして
 ハトを出しますね。
 税関では『タバコをたくさん持っているので
 申告しま〜す』といいながら、
 タバコ10カートンに布を被せ一気に消します。
 別室に連れて行かれることもありますが、
 歓迎されることも多いです」
小林 「そうや。
 以前一緒にイギリスに行った時、
 水性マジックはんは
 銀行でスモールチェンジし、
 出てきたコインを人差し指から小指まで
 行ったり来たりさせて大喝采浴びとったな。
 帰国する時も、ホテルで別れを惜しんで
 涙をぬぐうふりをして
 次から次にド派手なハンカチやパンティを出し、
 大笑わせこかせとったわ」
北小岩 「なるほど。実はわたくし、
 いつの日か難民キャンプの子供たちに
 手品を教えたり、
 親の仕事で日本にやって来た子供たちと
 マジックで交流を深めたりしたいと
 思っておりました。
 水性マジック師匠の芸は、まさに
 わたくしの求めていたものであります。
 ぜひ、弟子入りさせてください!」
小林 「それはええ。
 俺は油性マジック師匠に
 弟子入りしようと思っていたから
 ちょうどぴったしや」
北小岩 「油性マジック師匠はどのようなマジックを?」
小林 「外国の街角で
 『俺にはちんちんが二本ある』と言って
 女をナンパし、シャワールームで
 ウソつきといわれた瞬間にタオルで前を隠し、
 とるとあら不思議。
 ちんちんが二本になっとるという寸歩や。
 精巧な張り型を
 あらかじめおしりの割れ目に隠しておき、
 手際よく本物の横にくっつけて
 ちんちんが二本あるように見せるんや」
北小岩 「・・・・」
小林 「もっと大技も持っとるで。
 美女が尺八を吹いとるやろ、
 その美女にシーツをかけて、
 とるとあら不思議。
 いつの間にか美女は師匠のモノを・・・」
北小岩 「・・・・」

『マジック大国』。
それは日本が選択すべき道だと思う。
1億2千6百万全国民が、
老若男女問わずに国内外でマジックし、
世界の人々を楽しませる。
外人は日本人を見れば喜んで
「やってくれ!」と近づいてくるようになるだろう。
日本は確実に、世界の人々から愛される国家となる。
それは経済力が優れているだけの国よりも、
何十倍も魅力的だ。
だがマジックを悪用し、
自分だけいい気持ちになろうとしている
小林先生のような人間までもが修得することには
反対である。
そうなれば世界中のひんしゅくを買ってしまい、
日本は二度と浮かび上がれなくなってしまうに違いない。

2002-03-11-MON

BACK
戻る