いいものを編む会社。ー気仙沼ニッティング物語 2011年の11月、糸井重里の発案で ひとつのプロジェクトがじわりと動きはじめました。 それは、編みものの会社をつくるプロジェクトです。 拠点となる場所は、東北の気仙沼。 「ほぼ日」の支社がある漁師町で 最高のフィッシャーマンズセーターをつくることが、 「その会社」の仕事です。 セーターは、手編み。 編み手は、気仙沼のおかみさんたち。 すばやく大量にはつくれないけれど、 編む人がたのしくて、買う人がうれしい! そんな、わくわく感で両者がつながる セーターづくりを目指していきます。  プロジェクトで決まったことや進んだことを、 すこしずつ不定期におしらせしますね。 「気仙沼ニッティング」のレポートは、ここから。

レポート♯5 物語はこれからです。

アラン諸島の旅を経験した
気仙沼ニッティング・プロジェクトは、
「オーダーメイドのセーターづくり」を
目指すことになりました。

目指すことを実現するために、
何を決めて、どうやってそれを進めていけばいいのか‥‥。
チームは何度も話し合いを繰り返しました。

 

 

やるべきことが見えてきます。

それは、ひとつひとつ、
ていねいに取り組んでいくべきことばかりでした。

 

 

「つくるものは、ほんとうにセーターでいいのか」

「何種類のセーターをつくる?」

「色についてはどうしましょう?」

 

 

「最高の毛糸ってどうやって用意できるんだろう」

「三國さんの技術を編み手のかたに伝える方法は?」

「編み手のみなさんをどうやって増やしていく?」

 


「セーターの名前はどうしましょう」

「どのくらいの価格になるんだろう」

「撮影は? ロゴマークはどうする?」

などなど‥‥。
自分たちにできる「いちばんいい」、
「最高の方法」を探しては、進めていきました。

ひとつ、ひとつ。

 

 

とりわけ、デザインです。

プロジェクトの中心にあるのは、
なんといってもセーターのデザイン。

そこを一身に担うのは、もちろん三國万里子さんです。

 

 

アラン諸島から帰国して、
最初のモデルが編まれるまでに約5カ月。
三國さんは他のお仕事をしながら、
「気仙沼ニッティング」の
最初の一着をつくり続けていました。

一方で、プロジェクトは
いくつかのことが並行して進むようになりました。

そのひとつが、毛糸さがしです。

最高のセーターのために、最高の毛糸を用意したい。

その願いに応えてくださったのは、
京都の手芸糸専門店、AVRILさんです。
「ほぼ日」では、
このコンテンツで毛糸のことを話してくださった
福井雅己さんが、相談にのってくださいました。

 

▲テスト用に紡いだ毛糸を何種類も用意して。

 

▲ふさわしい毛糸を、三國さんが探っていきます。

 

手触りや色の具合、
編まれたときにどうなるかをイメージしながら、
色のテストも加えてAVRILさんは、
何度も試作の毛糸を紡いでくださいました。

そんな「毛糸さがし」を進めながら、
「編み手さんさがし」も進めなければなりません。
気仙沼ではこんなワークショップを開催しました。

 

 

ミトンのデザインは、もちろん三國万里子さん。
「IPPO」という名前は、糸井重里がつけました。

 

▲ワークショップは「気仙沼のほぼ日」で8月末に開催。


▲はじめましてのごあいさつから。

 

「編みものでたのしみましょう!」
まずはなにより、それが目的。
その上さらに、
いっしょに働いてくれる人に出会えればもっとうれしい。
そんなワークショップでした。

 

▲ワークショップは2日間にわけて行われました。

 

ちなみに、みなさんからは参加費をいただきました。
ですからその意味でこれは、
ボランティアではなかったのだと思います。
ふつうにたのしい、ワークショップでした。

 

▲黙々と編みものに集中する様子は、どこも同じです。

 

「あら、あんたも編みものするんだったの?」
というお知り合い同士がいらっしゃいました。
かと思えば、
震災後はじめてここで再会し、
無事を確認しながらいっしょに編みものをするふたりも。

 

▲糸井も参加。ときどき冗談のサービスがありました。

 

気仙沼に、
編みもの好きな人が増えればいいなと思います。
かつて気仙沼には編む人がたくさんいらしたと聞きました。
久しく編んでいない方には、
また編み針を手にしてほしいです。
そしてもちろん、はじめてさんも増えるといいな‥‥。

 

▲真剣に、ほんとうに真剣に最後まで参加してくれました。

 

このワークショップで実際に、
「編み手」となる方と出会うことができました。
おおきなおおきな出会いだったと思います。

 

▲まさしく、ここが「IPPO」。

 

こうして出会った編み手のみなさんとは、
互いにこころを通わせ合いながら、
いいセーターを編んでいくための関係づくりが
とてもたいせつな要素になってきます。

そこでまずは、
「練習」をしていただくことにしました。

「ほぼ日」乗組員の数名をお客さんにして、
実際にオーダーされたものを編むという練習です。

編むのは三國さんの本に掲載されている、
「アラン模様」が入ったカーディガンです。

練習とはいえ、お客さんとなった乗組員は、
ちゃんと自分で実費を支払います。
編み手の方に、ほどよい緊張感をもっていただくために。

毛糸の色を決めてもらったり、
サイズを計って教えてもらったり、
「編む人」と「編んでもらう人」の交流がはじまりました。
「ゆったりめがいい」とか「着丈を短めに」など、
各自の細かいオーダーも受けながら、
編み手のみなさんは
会ったことのない東京の人のために、
その手を動かしてくださいました。

そして‥‥。

 

▲下宿先の気仙沼からやってきた御手洗瑞子。その手にあるのは‥‥

 

▲完成したカーディガンの受け渡しです。

 

▲彼女は赤いカーディガンをオーダー。


▲さっそく、ふわっと‥‥。

 

▲似合う! かっこいい!

 

編み手のかたはみなシャイなのですが、
「自分のお客さん」にはメッセージをくださいました。
しかもビデオで。

 

▲「ビデオメッセージ」をみんなで。

 

「やっと完成しました。
 いっしょけんめい編みました。
 そのカーディガンを着て気仙沼に遊びに来てくださいね」

この受け渡しで、社内がわきあがりました。
決しておおげさな表現でなく、
一着のカーディガンで、みんながわあ!っと‥‥。
うらやましいんです、みんな本気で。

なによりもほら、
お客さんがこんなにうれしそうですから。

 

 

その後も、カーディガンは届きました。

 

 

それぞれみな、うれしくて、よろこんで。

 

 

そっと包み込んでくれる、
毛糸のその感触をしみじみと確かめるように、
たいせつに、そでを通します。

 

 

動画のメッセージも、あたたかくて。

 

 

NHK BS「旅のチカラ」、番組の終盤に映し出された
糸井重里のメモのことをまた思い出します。

 

大事にされているという感じ。
そのセーターを着たときに、
わたしは大事にされていると、
すっと口元がほころぶ。
それが、うれしいセーター。

 

▲彼女(田中さん)はグリーンの毛糸でオーダーしました。

 

▲こんなメッセージが、カーディガンといっしょに。

 

そして、ビデオメッセージ。

 

 

よかったね。
よかった、よかった。

 


毎回の受け渡しを行ってきた、たまちゃん。
これを渡せているということを、
彼女はいつもしみじみとよろこんでいました。
ちょっとはなれた場所で。

 


こうして練習で編まれたカーディガンは、
三國さんの目をしっかりと通ります。

 

 

それぞれに個性があって、それぞれに魅力的。
技術的には、オーケーです。
本番では、
誇りを持って買っていただけるものができるでしょう。

そもそもは技術的な部分での練習でしたが、
結果的には、
「やりとりのゆたかさ」を知る練習となりました。

やっぱり、こんなにうれしいんだ。
つくる人も、こんなにたのしいんだ。

 

 

さて。

ここはあえて、具体的な日付を記しましょう。

11月5日。

「ほぼ日」にやってきた三國万里子さんが、
テーブルの上に、
「それ」を広げます。

 

 

 

 

 

「気仙沼ニッティング」の、
ファーストモデルが完成しました。

糸井重里がこのプロジェクトを思いついてから、
数えてみれば約11カ月が経っていました。

それが早いのか遅いのかは、よくわかりません。
‥‥いや、きっと遅いのでしょう。

それでもこうして、
最高の一着が誕生するところまで、
わたしたちはたどりつくことができました。

3人の目の前に、それが広がっています。

気を持たせて、申し訳ありません。
その作品の発表は、
あらためてつくられる
「気仙沼Knitting」にて、堂々とさせてください。

もうすぐ、もうすぐです。

初年度となる2012年の販売は、
びっくりするくらいのちいさなサイズで行われます。
ちいさいけれど、「成り立つ」ことからはじめます。

「いいものを編む会社」は、ここからがスタート。
「気仙沼ニッティング物語」と冠して
お伝えしてきたこのストーリーも、まだ序章にすぎません。

物語はこれからですが、
このコンテンツは、ひとまずの中締めです。
ここでお伝えするのがふさわしい何かが起きたら、
またこの場所‥‥そう、
「みんなの初心がたっぷりつまったこの場所」で、
お会いしましょう。

すべては、あたらしくつくられる、
「気仙沼Knitting」に託します。

ご愛読を、ほんとうにありがとうございました。

 

2012年12月中旬 ファーストモデル 抽選販売 受付開始。          気仙沼Knitting


2012-12-05-WED

 

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