前川清の歌を聴きたい。〜4人が集まる、九州鉄道の旅〜 前川清・髙田明・唐池恒二・糸井重里

歌手の前川清さんがデビュー50周年となるこの年、
ほぼ日刊イトイ新聞は創刊20周年を迎えます。
お互いの「50」と「20」を祝い、
6月10日に記念コンサートを開くことにしました。
前川清さんは、ステージでまっすぐ立ち、
卓越した表現力で歌唱する方です。
ご本人は「歌は好きではない、うまくない」と
おっしゃるのですが、
50年間ずっと歌の世界を走ってこられたこと、
また、前川さんを尊敬する音楽家が多いことには
理由があると思います。
前川さんの地元である九州を列車で旅しながら、
糸井重里と、髙田明さん、唐池恒二さんが話します。
この連載を読んで前川さんの歌を生で聴いてみたくなったら、
ぜひ6月のコンサートにお越しください

この旅のルートを組んでくださったのは、
九州旅客鉄道株式会社(JR九州)さんです。

第8回 鯉唄。
糸井
(携帯電話でTwitterをチェックする)
前川
糸井さん、いつも遅くまで
Twitterをなさってますよね。
うちの家族がフォローしてて
「糸井さん、一日中ツイートしてるけど、
いつ寝てるのかな」
と言ってましたよ。
糸井
それに比べて前川さんは、
睡眠はきちんととっている‥‥わけじゃ
ないですよね?
前川
ぼくは前の対談でも申し上げたとおり、
睡眠剤がないとダメです。
32年ずっと、うまく眠れないです。
寝る前にもいろんなことを考えてしまいます。
糸井
ああ、だから前川さんは
「歌が好きじゃない」「下手です」ということで、
話をすませちゃうんですね。
前川
はい。
糸井
ほんとうのことを自分で知ろうと思ったら、
どこまでも考えつづけちゃうから。
前川
一所懸命逃げてるんですね。
糸井
それは若いときからですか?
前川
はい。
糸井
前川さんのお好きな、
鯉のことを考えてもダメですか?
前川
鯉は眠る足しにはならないですね。
糸井
でも、鯉のことを考えたり面倒をみていると、
「ああ、楽しかった」とか、
そういうことにもなりませんか。
前川
鯉はダメです。
鯉の赤と白の模様を見ると、
眠るときまでチラチラチラチラしてね(笑)、
まぶたに焼きついちゃって、ダメですよ。
糸井
だけどつまりそれは、
鯉を大好きだってことですよね?
前川
結果、そうなんでしょうね。
鯉の写真を夜中に眺めて、
「やっぱり、飼おうかなあ」なんて考えるんです。
写真見て、そのあと実際に見にいって、
だいたい7割がたは
「やめとこう」ということになりますので、
「明日まで待ってみて冷静になって決めよう」って、
夜中に迷ってる、それが楽しいんです。

「飼っている鯉は、自分の家に置いてるんですか?」
と、よく訊かれるんですが、
「ないよ、鯉屋さんに預けてる」
と答えます。
糸井
だったら‥‥。
前川
飼わずにいても、同じことなんです。
「飼ったと思って、そのままいりゃいいでしょ」
ということも、よく言われます。
糸井
ですね。
前川
だけど、そこで金を払わないと嫌なんです。
糸井
コレクターの人って
みなさんそういう心境になるようですね。
お金を払うというのはきっと、
自分と対象が一体になる手段なんですよね。
前川
きっとそうなんでしょうね。
糸井
前川さんと鯉の関係は、
けっこう長いと思いますが、
趣味としてはだいたい何年くらいですか?
前川
まあ65年くらいになりましょうか。
幼稚園のときからですので。
糸井
想像以上です。
前川
そのとき飼ったのは、黒い真鯉でした。
錦鯉が広く知られる前のことです。
糸井
それから錦鯉が広まって‥‥。
前川
黒い鯉から茶色い鯉が出て、
それを掛け合わせて黄色いのができて、
黄色を掛け合わせていろんな錦鯉が出てきました。

柄のいい鯉と、真っ黒の真鯉、
水から出したらどちらが先に
死んでしまうと思いますか?
先に死ぬのは、柄のいい鯉です。
原始からいる真鯉は強く、
かけ離れればかけ離れるほど弱い。
糸井
では、前川さんはその
「弱いの」を探してるんですね。
前川
そうです。
俺もねぇ、何をやってるんだ、
何十年も前からさ(笑)。
糸井
弱い鯉の管理は、
自分でもできるんですか?
前川
自分でできます。
しかし家庭では、下手すると鯉に
栄養たっぷりのエサをやってしまう。
口をパクパクするから、
人はエサをやりたくなっちゃうんです。
エサをやるから鯉が死ぬんです。
鯉は、エサをやらなかったら長生きするんですよ。
糸井
エサをあげると
エサを取る力もなくなってしまうのでしょうか。
前川
水の中に微生物や何かがいて、
ふつうはそれを取ってるんでしょうね。

‥‥もう、自分でも、「なんで」と思うんですよ。
別に、やめるならやめていいんです。
糸井
鯉で名を売ろうという気持ちもないでしょう。
前川
ないです。品評会に出したこともない。
糸井
でも、前川さんは、鯉の世界で
かなり有名ですよね。
前川
そうですね。
糸井
以前、京都でタクシーに乗ったとき、
運転手さんがとつぜん鯉の話をしはじめたんです。
なんとなく聞いてたら、
「前川清が」って名前が出て、
まったく関係ないであろう運転手さんが
ぼくに向かって、
前川さんがいかにすごいかという
自慢をしはじめました。
「あれはもうね、神だよ」なんていって、
挙句の果てにトランクから雑誌を出してきて、
前川さんが載っている記事を見せるんです。
ぼくは当時、前川さんから鯉の話を
聞いたこともなかったので驚きました。
とんでもない場所で知らない人に
前川さんは自慢されているわけですよ。
何匹飼ってるんですか?
前川
いやぁ、それはわからないんですよ。
卵がかえるのが、
30万、50万ですから。
糸井
あああああ、そうなのか。
前川
掛け合わせを考えて
自分で産卵させていくから、
何匹っていうのは、わからない。
しかもぼくは、鯉の価値や値段には興味はなくて、
どんな色が出るのかだけに、すごく興味があります。
糸井
おもしろいなぁ。
ふつうこんなふうに、
鯉の話は聞くチャンスないですよ。
前川
鯉の話をして
人と盛り上がることはないですもんね。
糸井
前川さんは、馬もお好きですよね。
馬は馬で、厩舎に預けてあるわけですよね。
前川
はい。よく考えたら鯉も馬も、
全部人に預けてるんですよね。
でもやっぱり、錦鯉のほうがおもしろいです。
そのために働いてるようなもんです、ほんとに。
糸井
今度はヨットを持ってみたらどうですか。
前川
趣味としては、ヨットのほうがまだいいでしょうね。
ぼくの錦鯉は、最悪の趣味です。
(明日につづきます)
2018-04-21-SAT