COOK
ダイニング部に
集合してくださーい!

地味地味ダイニング・蕎麦打つよ!
(鼠穴スタッフ出入り禁止篇)

こんにちは、こんばんわ、
年末年始もはたらくシェフ武井です。へっくしん。
今日は木工用ボンドガール・モギちゃんと一緒に、
夜中まで仕事さ。へへい。
あー、いいねえ、なんか、除夜の鐘の鳴る夜に
実直なわたくしたちは仕事。エライぞおれら。
バリ島にいるゴージャスなdarlingに比べて、
わたくしたちの地味なことったらないね。
でも、この、地味な感じが、また、楽しいのよねえ。
で、ダイニング部、やりまーす! 地味に。

いつものダイニング部は、大勢のかたが来てくれて
それはものすごくウレシイんだけど、
たまには「わびしい」のもいいでしょ?
だから、ごくごく身内の友人だけを呼んで、
思い切って鼠穴のスタッフは出入り禁止にして
(ほんとだよ、おまえら、休め!
 わしらは、あとで休みたいから、
 今日働いてんのよ!! お願いだから休んで!
 来ても、食わせないからなっ!)
ひそかにダイニング部をやることにしたのでした。

で、そば。そばしかないでしょう、大みそかなんだから。
それも、打つよ。ほんとだよ。でも打ったことないよ。
……どどどどーしよう!? 思いついちゃったのはいいけど、
まーーーーったく、自信ないの。
モギちゃんは打ったことあるの? ない?
「うどんはつくったことあるんだけどさー。
 あ、あと、陶芸やってるから、土を練るの、得意よ」
土。それはちょっと違うと思う。
「でもさー、菊練り、とか、一緒よ?」
そうか。技術的には、応用できる部分がありそうだね。

でも不安だったわたくしシェフ武井は、
静岡の実家の父に、いろいろ聞いてくることにした。
なんで父かというと、この人、和菓子の職人で、
いまはリタイアードなんだけど、
趣味でそば打ち、やってるんだよ。
昭和九年生まれの父アキラ、趣味人だ。
ほかの趣味は、鹿撃ちと鮎の友釣りと山菜タケノコ採りだ。
野人じゃないよ。これでも都会人よ(静岡の商店街だけど)。
「もしもし、とうさん、そば打ち、おしえてよ」
「おお、ええぞ。打つでな、見とけ」
というわけで、とある日曜日の早朝、実演してもらいました。

父アキラがいうには、この打ち方は江戸前なんだとか。
そばの本をいろいろ研究して、ひととおりやってみた結果
「これがいちばん、うめえでな」
ということなんだそうだ。
そば粉は並み粉、メリケン粉(強力粉)は2割。
二八蕎麦、ってやつだね、とうちゃん。

「まずな、広い作業台と、
 風が当たらない場所を確保しとけ」

風?

「蕎麦は風に弱いっけな。
 蕎麦屋でガラス張りの狭んめえとこで
 蕎麦打ってるの、あんじゃん?
 (不良なわけではなく、静岡弁です)
 あれな、わざわざ見せて自慢してるわけじゃねえで」

ああ、無風状態の場所がいいんだってことか。
僕もあれ、これ見よがしなのかと思ってた。
失礼しました、蕎麦屋さん。
鼠穴の2階、暖房切って、やりますよ。

「で、必要なものは、
 捏ね鉢、麺棒、麺切り包丁、
 切るときの定規になるT字形の“こま板”だで」

ない。そんなもんは。買わなくちゃ。
捏ね鉢はボウルで代用するとして、
うーん、しょうがない、ハンズ行くよ。
合羽橋は、年末29日までで、だめだし。

で、父アキラ、打つとこ見せて。

「よーく見てろよ。
 まず、蕎麦粉1キロのうち、300グラムを手粉にとっとく。
 残り700グラムの2割がメリケン粉だで、140グラムだな。
 ふるいにかけて、まぜる。
 それを捏ね鉢に、入れる」


 
ふむふむ。そのくらいは、できるぞ。

「で、水だけんな、
 加水率は45パーセントだ。これ絶対守れ。
 700グラム+140グラムの45パーセントだから
 378cc。なるべく正確に量って、粉に一度に入れる」
 
方程式だ。加水率。難しいこと言うねえ、父アキラ。



「ここでポイントがな、
 最初は、手に、ぜったいに、水をつけないように
 かき混ぜることだ。
 最初はこれで混ざるっかなあ、
 と思うくらいボロボロだけんが、
 両手でよーく混ぜてくだ。そうすっと、
 だんだんかたまりが大きくなるで」

ああ、なるほどね。ほんとだ。





「そうしたら、ほれ、こーして、
 体重をかけるように、折り込んで、丸める。
 回して、中にしぼりこむように、混ぜる」

これが菊練りか。

「で、艶がでてきたら、練りは終わりだ。
 円すい形にして、そのへそを下にしてつぶし、円形にな。
 ここまできたら、すぐに、ラップかけて、乾かないように」




 
手際いいなあ。父アキラは、延しのために自分でつくった
桜の板に漆塗った「延し台」に手粉をうち、
そこにさっきの練った蕎麦をのせ、
広げ始めた。





「麺棒で延ばすだけんな、
 ここが、コツでえ。
 ほれ、延ばすと楕円になるら?
 そうしたらこんどは、90度曲げてまた延ばす。
 そーすっと、ほれ……」

ひゃあ、丸いのが、だんだん角が出てきて、
四角になってくよー。
理屈、わかんねー。



「あとは、均一に延ばせたかどうかを
 丁寧に見てって、
 重ねる、と」

このあたりになると、何度もやらないと、
絶対にわからない領域だと思う。
和菓子屋の経験があってのもんじゃないのー。
僕には、むりかも。





蕎麦の生地は、あっというまに美しく畳まれ、
あとは切るだけという状態になった。
父アキラの包丁は羊羹包丁で、蕎麦用のではないというけど、
まあ、形は似てる。ちょっと力のかかる場所がちがうので
切りにくいらしいけど。
ああ、でも、美しく切られてくよ。



「ほれ、これで、出来上がり!」

あー。こりゃ、難しいわ。というわけで、
一応「学習」はしたけど、完全にぶっつけ本番で
今日を迎えてしまったわたくしです。
あとは「つゆ」もつくらなくちゃいけないし、
「かきあげ」も揚げて、大根おろしもつくって
ぶっかけ風の「天磯おろし」にしようと思うんだ。
これって静岡だけかな? うまいよ、店のは。
さーて、できますかどうか、お楽しみにねん。

2000-12-31-SUN

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