シダレハナビタケ 食不適
写真と文章/新井文彦

国道脇の駐車場に車を置き、
阿寒川の源流部に降り立つ小道を歩いて下ると、
まるで白いうさぎに導かれて穴に落ちたように、
一気に別世界へと突入した気分になります。
そこは、阿寒川の源流部に広がる森。
我々にとっては日常と切り離された場所かもしれません。
(毎日のように通っていてもやはり別世界です!)

森へ入って数mも歩かないうちに、
踏み跡に横たわる大きく太いカツラの倒木が。
これが曲者、というか、宝の木。
様々な種類のコケや地衣類が生えていて、
様々な種類のきのこや粘菌が、数日おきに、
入れ替わり、立ちかわり、発生するんです。

隠花植物ファン、かつ、倒木ファンとしては、
きのこや、粘菌や、地衣類や、コケなどの、
小さくも精緻な構造をルーペでじっくり観察して、
(宝石鑑定用の10倍ルーペを常に携帯してます)
その挙句に、三脚を立てて、
広角レンズを使い、マクロレンズを使い、
これまたじっくり写真を撮影するものだから、
全然先に進めないんです……(笑)。

だから、この倒木をチェックするのは、
訪れたときの3回に1回、と決めているのですが、
なんせ通り道にあるので、遠巻きでも、
きのこ目、粘菌目が威力を発揮してしまい、
きのこや粘菌のカラフルな子実体を見つけちゃうんです。
で、結局、引き寄せられてしまう、と……。

この日のきのこ目は、
倒木そのものには反応しなかったのですが、
倒木にもたれかかっている落枝にロックオン。
はあ、なるほど、白っぽく見えたのは、よく見ると、
シダレハナビタケでした。

このまったくきのこらしくないきのこは、
夏の盛りから秋にかけて広葉樹の倒木や落枝から発生。
枝が曲がって垂れ下がる様子が、
枝垂れ桜、ならぬ、枝垂れ花火?に見えることから、
この名前がつけられたのでしょう。

子実体の長さは2cmほど。
成熟するにつれて、色は、
真っ白から汚れた感じの黄土色へと変化。
手でつまむとくねっと曲げることができます。

まあ、こんな外観でもあるし、
直感的にも食べられないとわかるのでは?
そう、食不適であります。

小さいきのこをじっくり見るのは、
ルーペを使ったりするので時間がかかります。
でも、細部細部に自然の造形の妙が発見できるので、
これがやめられないんですよね。

そういえば、先日、
きのこ粘菌観察ツアーと銘打って、
8人で阿寒川源流部へ繰り出したのですが、
小さなものから大きなものまで、
きのこも粘菌もじっくりじっくり観察していたら、
予定した2時間で200mしか進めませんでした(笑)。
ほとんど移動しない森の散策も、乙なものです。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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