ウスキブナノミタケ
食不適
写真と文章/新井文彦

ブナは、基本的に、温帯の山地に生える木なので、
街や平地ではあまりなじみがないかもしれません。
山登りが好きな人は、登山道脇にブナの木を見つけると、
ああ、都会を離れて山へ来たんだなあ、と、
大自然に抱かれる感動を覚えるのではないかと(笑)。

この写真は、白神山地のはずれで撮影しました。
白神山地と言えば、言わずと知れた世界自然遺産。
青森県の南西部から、秋田県北西部にかけて、
人の影響をほとんど受けていないブナの天然林が、
世界最大級の規模で広がっています。

世界自然遺産への登録以降は、
核心地域へ入るのはかなり制限されてしまいましたが、
(まったく立ち入れない場所もけっこうあります)
周辺部をぶらぶらするだけで森の魅力を十分楽しめます。

北海道は、亜寒帯なので、
基本的に、寒すぎてブナが育たないんです。
渡島半島の「黒松内低地帯」がブナの生息の北限。
そこより北側に位置する北海道の大部分で、
ブナを見ることができないんです。
もちろん、阿寒でも。

ぼくは、北海道特有の、
鬱蒼とした針葉樹の原生林を見慣れているので、
白神山地周辺のブナの森へ行くのが、楽しくて!
落葉広葉樹のブナの森は、すごく明るく感じます。

さて、ウスキブナノミタケは、
秋本番の10月から11月くらいにかけて、
土に埋もれた前年のブナの堅果から発生します。
きのこの下の積もった葉っぱを丁寧に取り除いていくと、
細い柄は、思ったよりけっこう長く伸びていて、
時に歪曲しつつ、やがて、ブナの実に行き当たります。

傘は、淡黄色〜黄色で、直径1cm弱。
周縁部にはしっかりした条線が見られます。
最初は半球形で、成長するにつれて、
徐々にまんじゅう形に開いていきます。
高さは5〜7cmほどです。

小さいし、たくさん採れるわけでもないし、
まあ、食不適、というのは当然かと。
ブナの森の底で生きている小さなきのこを、
ぜひ、ぜひ、見守ろうではありませんか。

ところで。
ブナアオシャチホコという蛾がいます。
幼虫のときにブナの葉っぱを食い荒らすので、
ブナの天敵、と言っても過言ではなく、
これが、8〜11年周期で大発生するんです。

そして、そして、その大発生を目の当たりにした、
虫草屋と言われる、一部のきのこファンは、
にやり、と不適な微笑みを浮かべるわけです。

ブナアオシャチホコが大発生するときには、
なんと、そのサナギの9割くらいが、
冬虫夏草のサナギタケの餌食になるとか。

つまり、サナギタケが大発生するので、
虫草屋こと、冬虫夏草ファン大喜び!
ということなんです(笑)。

きのこファン、もとい、きのこ、恐るべし。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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