ニオイハリタケ
食不適
写真と文章/新井文彦

陸上で暮らしている哺乳類の多くは、
鼻が顔の前方に、にゅ〜っと伸びていますが、
彼ら彼女らは「情報」を収集するにあたって、
目よりも、鼻に重きを置いているからだそうで。

確かに、うちの柴犬はなさんも、
お散歩中は、あっちでくんくん、こっちでくんくんと、
常に匂いを嗅ぎまくっていますし、
何があっても、まずは匂いを確認しますからねえ。

森を歩いていて、
どこかからふと香りがただよってきて、
それに気づいて、改めて香りの主を探す、
という場面は、きのこ観察でもしばしばあります。

阿寒で、その最たるものは、
夏に多く発生するスッポンタケの仲間、
そして、今回ご紹介する、秋のニオイハリタケです。
マツタケやトリュフを香りで探すのは、
断言しますが、人間には無理です!

スッポンタケの仲間の場合は、強烈な匂いで、
主に虫を引き寄せて胞子を拡散させる戦略なのですが、
(アンモニア系の鼻にツンとくるイヤな匂い!)
ニオイハリタケの香りは、何というか、
果物のアンズ、あるいは芳香剤のようで、
格段、虫を集めているようでもなさそう。
人間的には好感度が高いですけどね。

ニオイハリタケは、夏の終わりから秋にかけて、
主に針葉樹の地面から発生します。
幼菌時はクリーム色で、真ん中がへこんだ杯状。
成長すると頭部は平らに開き、褐色になっていきます。
(表面は、でこぼこ、ごつごつです)
裏側は、上品な、灰色がかった藍色で、
頭部から柄にかけて針状の突起が続いています。

香りはいいのですが、食不適。
もちろん、ぼくは、食べようとも思いませんよ。
トイレの芳香剤を口に入れたくはありませんから(笑)。

でも、秋の森を歩いていて、
ニオイハリタケの香りをかぐと、
森林浴効果とも相まってか、
アロマテラピーとでもいうか、
本当に心がやすらぎます、はい。

きのこは何のために香りを放つのか?
きのこは何のために毒を持っているのか?
という問いを発することそのものに無理があるわけで、
「現に香りや毒があるんだから仕方ないべさ」
と答えるしかないんですよね(笑)。
でも、いつか、きっと、こんな疑問も、
解明される日がきっとやってくるはずです。
頑張れ、菌学者!

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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