食毒不明。疑わしきは食せず。
ヒナアンズタケ
食毒不明
写真と文章/新井文彦

通常、我々が「きのこ」と呼んでいるものは、
正確に言うなら、きのこの子実体、つまり、
胞子をつくって散布する生殖器官のこと。
きのこの本体は、地中や朽木の中に生息する、
菌糸という、細い糸のようなものなんです。

そして、きのこの定義は、カビの中で、
肉眼で見える大きさの子実体をつくるもの。
つまり、カビときのこは生物学的には同じ!

ベランダの鉢植えからいきなりきのこが生えたとか、
朝起きたら庭に巨大きのこが現れたとか、
そんな話をたまに耳にしますけど、
もちろん、物理学でいうところの、
質量保存の法則がやぶられたわけではありません。
(相対性理論の登場ですでに破られていますが……)

我々が気づいてないだけで、
きのこはカビと同じく常にどこかに存在していて、
タイミングが合えば、いつでも、どこでも、
子実体を発生させる可能性があるわけなんです。
なんてったって、カビですから。

見えない菌糸や胞子を想像して、
改めて森を眺め直すと、それまで気付かなかった、
いろいろなことを発見するきっかけになったりして、
これがまた楽しいんですよね……。

そんなこんなを考えながら森を歩いていると、
ゴゼンタチバナや地衣類のハナゴケが生えている、
まるで大きな盆栽のような倒木の根本部分に、
前日には無かったはずのきのこを発見(笑)!
ヒナアンズタケです。

専門的には、垂生と言うのですが、
ヒダが柄の中程まで伸びている姿が特徴的な、
傘の直径が3cmも無いほどの小さなきのこ。
若い個体であれば薄い黄色が目に鮮やかです。

夏の盛りから秋にかけて、
アカエゾマツの森で見かけることが多く、
ひとつ見つけると、
周りにまとまって生えていることも多々あります。

食べられるとしている図鑑もありますが、
多くの図鑑は食毒不明としていますので、
それに従いました、はい。

仲間のアンズタケは、最近、
微量ではあるものの毒成分が見つかったり、
放射性重金属を蓄積するという性質があるので、
ヒナアンズタケも食べない方が無難だと思います。
しかも、すごく小さいし。

しかし、ヒナアンズタケが、
いわゆる切り株から生えているのを始めて見ました。
木々の根と地中でネットワークをつくって、
栄養のやりとりする菌根菌なので、
子実体は地面から発生するのが普通なんですけど、
えいや! と一段高い場所に進出したのでしょうか?
がんばれ、きのこ!
負けるな、きのこ!

あれあれ、知らず知らずのうちに、
きのこに感情移入しちゃうんです、これが……(笑)。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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