ハイイロナメアシタケ
食不適
写真と文章/新井文彦

ずっとずっと昔のこと。
生物は動物と植物の二つに分類されていました。
動くものが動物、動かないけど成長するものが植物。

そして、植物は、
花が咲く高等な顕花(けんか)植物、
花が咲かない下等な隠花(いんか)植物、
その二つに分けられていました。

いま、ぼくが、夢中になって写真撮影している、
きのこ、粘菌、地衣類、コケ、そしてシダなどは、
みんな、いわゆる、隠花植物。
現在の生物学用語としてはほとんど死語ですが、
隠花植物そのもの、また、隠花植物という言葉に、
ぼくは、とても魅力を感じています。

阿寒湖を見下ろすようにそびえる雄阿寒岳の、
南麓に広がるトドマツを中心にした原生林の一角に、
そりゃあ見事な、インカ帝国、
もとい、隠花帝国が存在するんです。

広さとしたら、100m四方くらいなのですが、
林立する木々の下は、見渡す限り、コケ、コケ、コケ。
ほんの偶然で見つけた場所なんですけど、
足を踏み入れたとき、その光景に魅了されました。

まるで整備された遊歩道のように、
二股に分かれた獣道がこのコケの森を縦断しており、
誘われるように、奥の「核心部」へ進んでいくと、
感動は頂点に……。

この一角で見られるコケの種類は少なくても15種以上。
菌類と藻類の共生体である地衣類や、シダの仲間も多数。
そして、そして、
そんな、コケや、地衣類や、シダに混じって、
我らがきのこも、そこここに、にょきにょき!

呼吸をするのも忘れていたのか、
息苦しくなって、ふと我に返ったとき、何故か、
海の中だ!と思ったんです。
うん、確かに、そんな風に見えなくもない……。
ぷくぷく。

と、いうことで、
水の底にいるかのように撮影してみました(笑)。
ハイイロナメアシタケでございます。
それにしても、
シダ類のホソバトウゲシバがいい仕事してますね。
ほとんど海藻にしか見えません。

ハイイロナメアシタケは、夏から秋にかけて、
松の落葉から群生して生える、小さなきのこ。
つまり、松葉を分解しているわけですね。

直径1cm前後の傘は、灰色〜白系で中央部が茶色。
湿っているときは、やや粘性があり、
開くにつれ中央がだんだん窪んでいきます。
間隔がやや広めのヒダは白〜灰色。
柄は中空で、少しぬめりがあり、
成長すると灰色から褐色へと変わっていきます。

そんなきのこなので、食不適。
小さいし、触った感触もぬるぬるのわしわしで、
食するには不向きであることは、
食べずとも容易に想像できます。

川を通して森と海はつながっているわけで、
森が海に見えたり、海底が森に見えたりすることも、
あながち特別なことではないと思います。

森が海をつくり、海が森をつくる……。
自然は相互にみんなつながっているんですねえ。
何はともあれ、隠花帝国、バンザイ。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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