正解、食毒不明です。
クリカワヤシャイグチ
食毒不明
写真と文章/新井文彦

先日、仕事で大阪へ行くことになり、
ふと考えてみたら、この10年は、海外はおろか、
熱海!から西へ行ってないんです、これが。
(長野県の松本や白馬は訪れています)

かつては自他ともに認める旅好きだったので、
ちょっとだけ唖然とするのですが、
でも、北海道へ行ってるからいいか、
と思ってしまう自分が怖いです……。
本州からすれば、北海道は「海外」ですし(笑)。

その熱海、と言えば、温泉。
いやいや、
熱海、と言えば、花火大会。
熱海、と言えば、忘れちゃいけない、貫一・お宮。
え?もしかして、
貫一・お宮をご存じない?

まあ、大学で日本文学を習ったとか、
受験勉強で日本史でも選択してなければ、
今どき、尾崎紅葉なんて知りませんよねえ……。

尾崎紅葉は小説家で、その代表作こそ、
学生の貫一が結婚を目前にして、
許婚のお宮に裏切られ(資産家と結婚)、
激怒して復讐のために高利貸しになる、という、
『金色夜叉(こんじきやしゃ)』。
その別れの舞台が、熱海の海岸なんです。

タイトルにある「夜叉」という言葉そのものは、
吉田秋生や高橋留美子の漫画で知っている、
という方も多いかと思いますが、
それが、古代インド神話に登場する鬼神で、
のちに仏教に取り入れられた護法善神、
ということは知らない人が多いかも……。

さてさて、世の中には、
クリカワヤシャイグチというきのこもあるんです。
すごいネーミングですよねえ。

クリカワヤシャイグチは、夏から秋にかけて、
主に広葉樹林の地上から発生します。
栗皮色の傘はビロード状で、直径3〜8cmほど。
イグチの仲間なので、傘の裏側は、
小さい穴がいくつもあいたスポンジのような管孔で、
最初は白っぽく、だんだん紅味を帯びてきます。

柄は、突起したような縦筋があり、中実で固く、
どの個体も、くねくねっとしているんです。
採取したあとにちょっと力を入れると、
ポキリ、と折れてしまいます。

食毒不明、とのことですが、
齧ってみるとものすごく苦いらしいので、
毒がなくてもとても食用にはならないそうです。

で、問題は、何故「夜叉」なのか……?
独断と偏見で、いろいろ想像してみるに、
やはり肝となるのは見た目、つまり、形状かと。

Wikipediaでいろいろ調べてみると、
「バラモン教の精舎の前門には一対の夜叉像を置き、
 これを守護させていたといい、
 現在の金剛力士像はその名残であるともいう」
とあります。

そうか!

東大寺南大門の金剛力士像を見ても、
法隆寺中門の金剛力士像を見ても、
直立ではなく、体がくねっとしていますよね。
この、夜叉的くねくねが特徴的なきのこ!
と、いうことで名付けられたのではないかと……。
本当のことはわかりません、あしからず。

ちなみに、
熱海の海岸に設置されている、貫一・お宮の像は、
ダイヤモンドに目が眩んだのか、とりゃあ!って感じで、
貫一がお宮を足蹴にしているシーンなんですよねえ。
どんな理由であれ、今だったら、DVで訴えられますよ。
ドメスティック・ヴァイオレンス。
暴力反対!そして、戦争反対!

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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