エゾサルノコシカケ
食不適
写真と文章/新井文彦

ぼくの写真撮影のメインフィールドは、
北海道の道東地方にある、阿寒湖の周辺。
と、いうことで、この「きのこの話」では、
本州以南にお住まいの皆さまにはあまり馴染みがない、
「北方型きのこ」をご紹介する場合もあります。

植物の分類で言うなら、
北海道のような寒冷地で見られるものには、
エゾノツガザクラとか、シレトコスミレとか、
シコタンキンポウゲとか、チシマギキョウとか、
いかにも北海道!という名前がついてたりしますね。

きのこと植物の名前の付け方のルールが、
どれほど違うのか不勉強でよくわかりませんが、
きのこの名前にも「エゾ」という言葉は、
比較的よく使われている気がします。

もちろん、名前に「エゾ」があるからといって、
北海道特有種であるとは限りません、はい。

さて、今回ご紹介するきのこは、
その名も、エゾサルノコシカケ。
先ほど、名前に「エゾ」があるからといって、
北海道特有種とは限らない、と書いたばかりですが、
おそらく、このきのこは、北海道以外では、
ほとんど見ることができないでしょう。

北海道特有種と断言できないのは、
このエゾサルノコシカケは、
エゾマツやアカエゾマツから発生するんです。
(写真の木はアカエゾマツです)
で、エゾマツの分布は、
北海道から南千島そしてサハリンにかけてなので、
本州以南ではまず見られないと思うのですが、
アカエゾマツの生態がちょっと厄介。
基本的にはエゾマツと同じく、北海道から、
南千島そしてサハリン南部にかけて分布するのですが、
なんと、東北地方の早池峰山でも生育!
遠隔分布ってやつですね。

ですから、もしかしたら、万が一、
早池峰山に生えているアカエゾマツを探したら、
エゾサルノコシカケが見つかる可能性は、
ゼロではないかも……。

エゾサルノコシカケは、林業関係者からすると、
マツの生木から発生して木を枯らしてしまう厄介者。
その昔、阿寒の森も「こっぴどくやられた」とか。

サルノコシカケの仲間によくあるように、
固くて、半円形で(厚みもけっこうあります)、
年々成長して大きくなっていく、多年生です。
暗褐色の表面にはまるで年輪のような溝があり、
ざらざらごつごつしています。
直径40cm、厚さ20cmくらいに成長するものも!

何でも、エゾサルノコシカケは、
枯れた枝から侵入して、そこから幹の本体にかけて、
徐々に腐生を侵攻させていくのだとか。
そして樹齢50年以下の「若造」からは発生しません。

林業関係者の皆さまには申し訳ありませんが、
きのこ好きとしては、
菌類特有のパフォーマンスで、
木々を間引きして森を活性化させている、と、
ついつい贔屓目に考えてしまいます。

頑張れ人類。
頑張れ動植物。
負けるな菌類。
自然は美しくも厳しいですねえ……。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
感想をおくる とじる ツイートする