おしい!食べられるんです!
エゾハリタケ
食
写真と文章/新井文彦

ある夏の終わり、
アイヌ料理屋の友人から誘いがあり、
ヒグマの肉をご馳走になりました。
知り合いの猟師が仕留めた、とのことですが、
ひとつだけ、問題が……。
獲物になったくまさん、年老いていたんです。

野生動物の肉は、クマにしてもシカにしても、
臭みがあると思われがちですけど、
旬に猟をしてきちんと処理をしたものであれば、
全然問題ありません。
というか、皆さん、
「旬」のクマの肉、食べたことあります?
(冬眠中、もしくは、冬眠前がベスト)
あまりの美味しさに感動しますよ、きっと!

で、シンプルに岩塩とコショウで味付けした、
クマの焼肉をご馳走になったのですが、
味はそこそこいいけど、の何の……(涙)。
噛んでも、噛んでも、噛みきれない。
何十回咀嚼しても口の中のカサが全然減らない……。
これぞ、まさに、野生。

でも、頑張って、食べました。
噛んでいると味が薄くなってくるので、
時々、岩塩をなめなめ、食べ切りました。

くまさん、ありがとう。
ごちそうさまでした。

さて、今回ご紹介するきのこは、
カエデなど広葉樹の幹に発生するエゾハリタケ。
半円形の傘がたくさん重なり合って、
高さ、幅、ともに30cmを超すほどに成長する、
けっこう大型のきのこです。

特別珍しいきのこではないのですが、
木の幹の高い位置に発生することが多く、
そうなると、観察するにも、採取するにも、
困難なんですよねえ。

東北地方だと、エゾハリタケというより、
「ヌケオチ」と言ったほうが分かりやすいかも。
木の高い場所に生えていたものが雪の重みで落ち、
それを採取するということからくる呼び名のようです。

そう、こんな形をしていますけど、
エゾハリタケは食べられるんです。

幼菌は、焼いたり、炒めたり。
味、香りともに温和なんですけど、
薄く切るのがコツ。
なぜならば、エゾハリタケは、
きのこらしからぬ、すごい歯ごたえなんです。
噛んでも、噛んでも、噛みきれない、
それは、まるで、年老いたクマの肉のよう……(笑)。

そして、特筆すべきは、
古くなったものも食用にするんです。
発生するのは真夏だけど、ヌケオチなんて言うように、
きのこ本体が雪の重みで落ちるのを採取するとしたら、
冬から春にかけてのことですから。

何でも、ヌケオチを拾ったら、
1週間くらい土に埋めてちょっと腐らせたうえで、
きれいに水洗いしたあと茹でて、
半年以上にわたって塩蔵するのだとか!
そこまで手間をかけるのであれば、味はどうあれ、
珍味と言っても過言ではありません(笑)。
(調理の際には塩抜きをします)

腐らせてから塩蔵って……。
世界に誇るべき、きのこ食の知恵!
すごいなあ。

生きていくために食べる、ということは、
他の生物の命をいただくこと……。
改めて考えるまでもなく、常に、そのことを、
しっかりと胸に刻んでおきたいと思います、はい。
きのこひとかけといえども、無駄にしないように。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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