おしい!食べられるんです!
キイロスッポンタケ 食
写真と文章/新井文彦

初夏の森。
腐朽が進んで苔むした倒木の上に、
ぷにゅぷにゅした感触を持つ卵状の物体が。

きのこ検定2級くらいの実力があれば、
これが、あるきのこの幼菌だとわかるはずです。

中味がゼリー状の白い「卵」の上部に、
突起物が認められるならば「孵化」が近いしるし。
早ければ数時間後、遅くても翌日くらいには、
立派な子実体が見られるはずです……。

そう、そのきのここそ、
今回の主役、キイロスッポンタケです。

きのこ写真家としては、最大限の注意を払い、
持てるテクニックを駆使して、とにかく、
さわかやに、さわやかに、撮影したつもりです。
しか〜し。
このキイロスッポンタケが放つ猥褻なオーラに抗うことは、
実力不足も否めませんが、到底不可能でありました(笑)。

今回のこの写真をご覧になって、
ふむふむ、とにやける男子もいれば、
いやん、と頬を赤らめる女子もいらっしゃるかと……。

あなたたちの想像は決して間違っておりません!
キイロスッポンタケの本家本元、
スッポンタケの学名は「Phallus impudicus」。
訳すと、これがなんと、恥知らずな男根!
す、すごい名前ですねえ……(笑)。

日本名の「スッポンタケ」も、
これまた絶妙なネーミングですな。
そもそも、スッポンの形そのものも、
古くから「あれ」を象徴しているわけですし(笑)。

何でも、ビクトリア時代のイギリス帝国では、
スッポンタケの姿が「あれ」に似ているゆえ、
図版に収録する際には上下さかさまに掲載した、
などというハナシもあるそうです。

とりあえず、形状のことはさておいて。

スッポンタケの仲間の、
いわゆる傘の部分には通常、グレバと呼ばれる、
ものすごい悪臭がする暗緑色の粘液が付着しています。
この粘液の中には胞子が混じっていて、
悪臭で呼び寄せた虫たちに胞子を運ばせるんです。
何と素晴らしいアイディア!

それだけに、このグレバは、
人糞臭とアンモニア臭が混じったような、
本当にすさまじい匂いがします。

そんなすさまじい匂いのグレバを持ちながら、
スッポンタケ系のきのこは食べられるものが多いんです。
スッポンタケと同じような形をしていて、
根本まで届くようなレース状の網目(菌網)を持つ、
きのこの女王と呼ばれるキヌガサタケは、
中華料理の高級食材として、知る人ぞ知るですね。

食べられるのは、傘を取り除いた柄の部分。
グレバが付かないよう慎重に採取してください。
実は、ぼくも、何回か、
食べてみようとチャレンジしたのですが、
柄をどんなによく洗っても、
グレバの匂いが染み付いていて取れないんです。
あの匂いを嗅いでしまうと食欲なんか吹っ飛びますから、
何を隠そう、まだ食べたことがありません……。

ちなみに、スッポンタケと、キイロスッポンタケは、
キイロスッポンタケが腐朽木から発生すること、
名前の通りに黄色いことを除けば、ほとんど同じです。
スッポンタケの仲間は、成長が早いことでも有名で、
その成長速度たるや、タケノコも真っ青。
「卵」を突き破って、子実体が伸び始めたら、
3時間くらいで10〜15cmにまで達します。
実際に見てみたいでしょ?

それにしても、きのこって、
本当に、エ……、いやいや、面白いですね。

※このコンテンツでは、 きのこの食毒に触れてますが、 実際に食べられるかどうかを判断する場合には、 必ず専門家にご相談ください。
 
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